名だたる作家が快諾する海外文学ガイド「BOOKMARK」の執筆依頼状を公開
書店へ、図書館へ、校正・校閲......助け舟が続々と
なんで、こんな冊子を出すことにしたのかについては、単行本の前書きで共編者の三辺さんも書いているのですが、つまるところ、翻訳物が好きだから、紹介する冊子を作ろう、という、ただそこから始まったようなものです。そこにオザワミカさんという素晴らしいデザイナーが加わってくださって、とりあえず、形だけはできました。
そのあと、じゃあ書店に取り次いであげようという方が現れ、じゃあ公共図書館2000館に送ってあげようという方が現れ、さらに、第1号、第2号があまりに間違いが多いというので、校正・校閲をしてあげようという方々が現れて、現在にいたる、という感じです。
そのうえ、原稿料なし(冊子30冊をお礼に)という条件で紹介文を書いてくださる翻訳者の方々が、ほとんどみなさん、怒ったりせずに、それどころか、とても喜んでくださる。いや、こちらこそ、申し訳ありません、という以外ないのですが、うれしいです。
とくに、翻訳界の大先輩ともいうべき方々、たとえば、佐宗鈴夫さん(パトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』)、志村正雄さん(ナット・ヘントフ『ジャズ・イズ』)、藤井省三さん(李昂『海峡を渡る幽霊 李昂短篇集』)などから励ましの手紙やメールをいただくと、僭越ながら、多少は恩返しができたかなと思ったり。それ以上に、若手の翻訳家の方から熱い思いを伝えられると、これがまたうれしい。
さらに、書店ではコーナーを作ってくださるし、図書館では展示をしてくださるし。自分もたまにはいいことをしているんだなと思えて、この「BOOKMARK」、まだしばらくは続けていこうと思っていますので、どうぞ、よろしくお願いします。
それにしても、訳者の400字にこめられた気持ちはどれを読んでもひしひしと伝わってきます。考えてみれば、いままでブックガイドはたくさんあったけど、訳者が紹介したものはなかったかもしれません。
最後に、サンプルとして、11月に配布される第15号から紹介文をひとつ。
『絶望名人カフカの人生論』
フランツ・カフカ
頭木弘樹 編訳
新潮文庫
520円+税
中学生のとき、夏休みの読書感想文のために、いちばん薄い文庫本を選んだら、カフカの『変身』だった。その『変身』を思い出したのは、二十歳で突然、難病になったとき。ある朝、ベッドの中で虫になって、部屋から出られなくなって、家族に面倒を見てもらうしかなくなった主人公。久しぶりに読み返したそれは、難解な小説どころか、自分にとってはまさにドキュメンタリーのようだった。
カフカの日記や手紙まで読むようになった。こういう言葉があった。「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」病院のベッドで倒れたまま読んだ。笑って泣いた。
13年の闘病生活の間、自分自身のために、カフカの言葉を訳していった。手術して社会復帰できたとき、本にしようと思った。昔の自分のような人の手に届けたかった。カフカの「ぼくの本が、あなたの親愛なる手にあることは、ぼくにとってとても幸福なことです」という言葉と共に。
(頭木弘樹)
『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』
金原瑞人・三辺律子 編
CCCメディアハウス
●イベントのお知らせ
『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』刊行記念
金原瑞人さん×三辺律子さん×オザワミカさん トーク&サイン会開催
日時:10月31日(木)19:00~
場所:丸善・丸の内本店 3F 日経セミナールーム
要整理券(電話予約可)
https://honto.jp/store/news/detail_041000037947.html