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パックンのお笑い国際情勢入門

「日本にも政治風刺はある、強かったのは太平洋戦争のとき」早坂隆×パックン

2019年8月9日(金)19時45分
ニューズウィーク日本版編集部

早坂 東條内閣を笑うというようなジョークが、実はあったんです。

街中では言えないけれど、例えば「愛国行進曲」という歌があって、〈見よ、東海の空明けて~〉という歌詞を、〈見よ、東條の禿げ頭~〉という替え歌にして、笑っていたというのが実はあった。

パックン えぇ~! それは怖いねえ。あの時には歌えない。

さっきのルーマニアの例も同じだけれど、強い圧力が上からかかったときは、それに対する反発として「権力を笑う」というものが出てくる。でもそのジョークは、今の日本にも通じる替え歌ですね。

早坂 そうですね。あと、これは街の中の話だが、戦時中に〈ぜいたくは敵だ〉という標語があって、それを書いた看板が置かれている。そこに町民が落書きをする。知ってますか。

パックン えーと、前に見たことがある......。うーむ、教えてください。

早坂 ひと文字書くんです。〈ぜいたくは敵だ〉の「敵」の上に「す」と入れる。〈ぜいたくは素敵だ〉

あと、〈足らぬ足らぬは工夫が足らぬ〉という標語があったんですけど、その看板から「工」の字を消すんです。そうすると〈足らぬ足らぬは夫が足らぬ〉になる。

こういう反抗は戦時下からあった。町の人たちはしたたかにやってたんです。

「日本では漫才の掛け合いのような会話が多いんじゃないか」

パックン 文字の遊びが日本人は好きですよね。言葉遊びがいまだに主流な気がする。

笑点だって、毎週、何回、大喜利の中で言葉遊びが登場するか。もちろん言葉遊びだけじゃないネタもあるが、必ず入ってくる。(芸人の)ねづっちは言葉遊びだけでやっている。

早坂 ただあれば、日本語が分かる人でないと成立しない。

パックン これは日本人にウケる、ウケないとか、どうやって区別をつけているのか。体制をこき下ろすものは日本でそんなに通じないだろうし、特定の人種を題材にしたものも、そんなに通じない。この2つはたぶん、アメリカのコメディーの半分くらいを占めている。

あと、ジョークの形式を共有していないと通じない。小話がいきなり始まる。「男がバーに入ってきた」とか、「飛行機の中にイタリア人、イギリス人、フランス人の神父さんがいる」みたいな。突然こういう設定が登場して、日本人がついていけるかという心配はないですか。

早坂 設定としては、登場人物を日本人に分かりやすい民族に変える、とかはあります。でも、そのへんはわりあい通じますよ。イタリア人は女性にモテたがるとか、フランス人が天邪鬼だったりとか、そのへんのエスニックジョークは日本人にも通じますね。

パックン なるほど。僕らも漫才で使ってるんですよ。絶対知ってると思いますが――

豪華客船が沈没しそうになっている。船長さんが言う。イギリス人には「紳士なら飛び込めよ」、イタリア人には「飛び込んだらモテるぞ」。フランス人には「飛び込むな」と言って、彼らは飛び込む。そして日本人には「ご覧なさい、みんな飛び込んでいる」。

早坂 アメリカ人には「飛び込めばヒーローになれますよ」。

パックン ドイツ人には「飛び込む決まりになっています」。

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