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パックンのお笑い国際情勢入門

ウーマン村本×パックン「カウンターパンチは全部ありだと思う」

2019年8月7日(水)17時10分
ニューズウィーク日本版編集部

「どこかで誰かが不快な思いをしている」

パックン その場で笑った人は、自分の差別意識が強化されることがあると思う。昨日も英語でスタンダップをやっている芸人さんに取材したんですが、日本のお笑いはあまりメッセージがない、海外のお笑いはメッセージを残す、みんなが持って帰るものがないとネタとは言えないと言ってた。

ただ、それが間違ったメッセージである危険性も考えないといけないと思うんですよ。かつてナチス・ドイツのプロパガンダ紙には、ユダヤ人をばかにする風刺画が毎日のように載っていた。確かに笑えるものもあったが、それがホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を助長したとも言える。果たして芸人は無責任でいいのか。

村本 仕事がなくなることを覚悟のうえでの発言かどうかだと、僕は思う。結局、料理人がウサギを使おうが、ウシを使おうが、ブタを使おうが、どこかで、「え、ウサギ使うの?」「ウシ使うの?」と言う人はいると思う。例えば、全世界が見ているチャンネルで芸人がネタをやる。不快だと思ったらボタンを押してくださいとなったら、1秒に1回はボタンが押されると思うんですね。それぐらい......。

パックン どこかで誰かが不快な思いをしている。

村本 例えば交通事故のネタをしたとき、お客さんの中に事故で家族を亡くした人がいるかもしれない。火事のネタもなんかもそう。僕は今、ジャニーズの嵐のネタをやっているんですよ。西日本の豪雨ですぐに被災地に行ったのは松潤(松本潤)。ただ、豪雨の後に嵐が行っちゃダメ、というネタ。みんなウケるけど、「嵐をばかにしてるんですか」とか「被災地の人に失礼です」っていうのが何通か来る。最近は、これはジョークですから、いちいち本気にしないでくださいねって頭に入れるわけですよ。あとはもう、ここは冗談の夢の国なので、傷つくのが怖かったら来ないのがいいんじゃないって。

パックン 僕はちょっと意見が違う。僕らはアーティストで、伝える側として責任はしっかり持たないといけない。その上で、なるべく社会に対する疑問をぶつけていいと思う。それが日本では見られないのは残念。疑問をぶつけてるのは村本さんと厚切りジェイソンくらい。あれは疑問ばっかりなんだけど!

でも答えを出すときは、正しいと思う方向に導く責任がある。その答えが正しくないと社会が思うならその反論にも耳を傾けて、自分のネタを変えなきゃいけないときはある。僕は田舎育ちで、黒人やユダヤ教に対する差別的なジョークを聞いて育った。でも大学でユダヤ教徒の友達ができて、彼らが世界でどれほど差別を受けてきたのか、その歴史を知ったから、そういうジョークは2度と口にしない。一部の人が笑うとしても、言わない責任はある。

ちなみにフランスでは、「できる」ことが前提で、本人がやっていいと判断したらやっていいというが。日本はできないのが前提で、やっていい? と許可を取らないとできないことが多い。

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