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パックンのお笑い国際情勢入門

日本人は「政治に興味ない」「専門的に生きている」──外国人のお笑い座談会より

NOT STANDUP, SIT DOWN COMEDY CHAT

2019年8月6日(火)09時45分
ニューズウィーク日本版編集部

「日本人は今、そこまで不満がないんじゃないか」

ナジーブ 政治とちょっと違うけど、アイデンティティーのユーモアがある。これは面白いと思いますね。日本でもネタにできる可能性があると思う。

例えばシリア難民の話で――実際にあった話だけど――スウェーデンに随分前に難民として行き、今は市民権を取っているシリア人がいる。彼らの祖国から難民がたくさんやって来たときに、彼らはその新しい難民を排除したい政党に投票したんですよ。同じシリア人なのに。

レバノンでも、隣国シリアからの難民を疎ましく思う風潮がある。30年前に難民としてレバノンに来たシリア人が、レバノン国籍を取った。その役所からの帰り道で、こう言う。「あー、一体いつになったらシリア人は自分の国に帰るのか」

パックン いいジョークだね。

 実情でしょ?

ナジーブ いや、スウェーデンは実情だけど、レバノンのところはジョーク。

パックン でしょ。だからスウェーデンの実情を題材にそういうジョークを作っているというのは、素晴らしいと思う。矛盾した状況。僕も個人的に、先に入ったアメリカ人のお笑い芸人として、後から日本に来たアメリカ人を排除したい気持ちはある。

(一同爆笑)

編集者 厚切りジェイソンとかですね。

パックン おい、名前出すな!

チャド ジョークのおおもとにあるのは真面目なことじゃないですか。それを面白おかしく伝える。笑って過ごすしかないというか。となると、日本は平和ボケと言われるくらいで、苦しい局面にいない、不条理を経験していないから、そういうユーモアが生まれていないのでは。

パックン (ジョーク本著者の)早坂隆さんも言ってました。日本人は今、そこまで不満がないんじゃないかと。

チャド 日本人はわりと受け入れ態勢抜群な人たちでしょう。受け入れてしまう。不満がないわけじゃないけど、まぁしゃあないなと。もしも爆発するぐらいに不満が(社会に)たまってるなら、勝手に芸人がネタにしていると思う。芸は社会の鏡だから。

パックン でも、万が一不満があったとしても、それを代弁するのは芸人じゃないという国民目線もあるんじゃないか。なんで芸人がそんな政治ネタをやって、政治に口出してるんだっていう、芸人を見下す風潮。

編集者 最近はカンニング竹山さんなどがコメンテーターとして活躍しているが、見下す風潮はないと思う。

パックン (彼は政治で)ジョークを言っているわけではない。僕もコメンテーターをやらせてもらっているが、ジョークとメッセージは分けて発言している。

フランス人に教えてもらったけれど、フランスのお笑いにはメッセージが必要だと。アメリカでスタンダップをやっている日本人2人に聞いても、アメリカのお笑いにはメッセージ、何か残すものが必要だけど、日本人は芸人にメッセージを求めていないと言っていました。

ナジーブ 仕事から帰ってきて、何も考えない、ばかな笑いがいいということだと思う。

1つおすすめしたいドキュメンタリー映画があるんですけど、山形国際ドキュメンタリー映画祭で見た、在日朝鮮人が日本のアダルトビデオ業界で活躍する作品。『IDENTITY』という作品だけど、監督が面白い人で、本当は作品名を「冬の素股(すまた)」にしたかったと。

(一同爆笑)

ナジーブ 私も爆笑したんだけど、もう1つ笑ったのが、今は帰化して日本人になった人がAVの撮影のために東京から広島に行くシーン。新幹線の窓から富士山を見て、「あー、富士山を見ると、やはり日本人でよかった」と、カメラに向かって、冗談でなく真面目に言ってるんですね。

パックン その在日は日本で生まれた人?

ナジーブ はい、日本で生まれた人。その人は自分を日本人だと思いたい。でも映画全体を通して、全然日本人として扱われていない。アイデンティティーの矛盾がある。

パックン それを聞いただけで、僕はすごく悲しい。

ナジーブ もちろん悲しいですよ。悲しみの爆笑です。たぶん私も、今シリアが内戦になってて、日本の国籍を申請することになる。でも70歳のおじいさんになってもおそらく、日本人として認めてもらえないと思う。

パックン そういう事情をネタにできるはずなんですよ。そしてそれは許されるはずなんですよ。今日の(昼間のパックンマックンの)舞台でも話したんですけど、みんな――周さんは違うかもしれないけど――お箸上手ですねと言われる。26年日本に住んでてお箸使えないやつがいるか!と思う。

 当たり前だよ。(お箸の使い方は)私が(日本人に)教えたようなものだよ!

(一同爆笑)

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