最新記事

音楽

エロチックなR&Bの女神が降臨 ドーン・リチャードの新譜は...

Sexual Healing

2019年1月21日(月)16時00分
ザック・ションフェルド(カルチャー担当)

リチャードは新作『ニュー・ブリード』で大人のシンガーへ脱皮を遂げた ROBERT ARNOLD

<最新アルバム『ニュー・ブリード』は、故郷への愛にも満ちた仕上がり。ガールズグループ出身のセクシーな注目アーティストは、「自分の性は全面的に肯定できる」と語る>

ドーン・リチャードはガールズグループ、ダニティ・ケインの一員として2000年代中盤にブレイクした。だがソロになってからはヒット狙いのポップ路線と決別し、独創性あるR&Bアーティストに成長。しかも最新アルバム『ニュー・ブリード』は、新たな旅立ちを感じさせる。

「ニューオーリンズで育った黒人女性としての私の旅路を表現した」と、リチャードは言う。

「音楽、恋愛、喪失......。故郷が私の生き方の全てを決めたのだから」

彼女はファンク歌手の父とダンサーの母の下で育った。一家は2005年、ニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」で家を失う。ボルティモアでの避難生活を経て故郷に戻ったのは10年後だった。同じ2005年、リチャードはMTVのリアリティー番組『メイキング・ザ・バンド』に出演し、ダニティ・ケインに参加した(2009年に解散)。

力強い歌唱力でエロチックなラブソングから、業界の男たちに物申す曲「ニュー・ブリード」まで幅広い作品を自在に歌う。業界への鬱憤は、ダニティ・ケイン時代からたまっていた。「ポップさが足りないとか、ソウル色が強過ぎるとか、プロデューサーに散々けなされた」

2017年には、実験精神豊かなインディーズバンド、ダーティー・プロジェクターズと共演。新作『ニュー・ブリード』はきらびやかなエレクトロ・ファンクにダブやアカペラを織り交ぜ、未来志向のR&Bアルバムに仕上げた。ブラスバンドが通りを練り歩く音楽の都ニューオーリンズの日常風景が、随所にちりばめられている。

プリンスの曲を再解釈

多くのアーティストは別れた恋人について歌うが、リチャードの「ジェラシー」は一味違う。怒りの矛先を向けるのは「恋人の元カノ」なのだ(「私の男に電話する権利はあんたにない/メールする権利だってない」)。

この曲は実体験が基になっている。「恋人の元カノに、本当にそんなメールを送ろうとしたの。ケチなことをしたものよね。恨みがましいことを9ページも書いてようやく、ちょっと待てよと思った」。メールは送信した?「保存してある。ケチな私が顔を出したときの戒めとして取っておくつもり」

最も影響を受けたアーティストはプリンス。2016年には『リデンプション』に収録した「ヘイ・ニッキー」で、型破りなオマージュを捧げた。際どいセックス描写で物議を醸したプリンスの「ダーリン・ニッキー」を、フェミニストの視点から解釈し直したのだ。

ディアンジェロも好きだと、リチャードは言う。セクシュアリティーと欲望を率直に表現する2人の姿勢は、大きな刺激となった。なるほど『ニュー・ブリード』に収録されている「ソース」は、そのままベッドルームのBGMに使えそうな曲だ。

「自分の性は全面的に肯定できる」と、リチャードは言い切る。「後ろめたさも恥ずかしさも、これっぽっちもない」

<2019年1月22日号掲載>

※2019年1月22日号(1月15日発売)は「2大レポート:遺伝子最前線」特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、過去の米軍事支援を「ローン」と見なさず

ビジネス

独連銀総裁「過度の楽観禁物」、ECBインフレ目標回

ビジネス

年内2回利下げが妥当、企業の関税対応見極めへ=米S

ビジネス

米国株式市場・午前=ダウ500ドル超安、ナスダック
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中