恐怖の「それ」がえぐり出す人生の真実
「それ」に感染した後のジェイの行動によって、ストーリーは少女もののサバイバル系ホラーを超えた領域へ展開する。
「セックスの悪を説く教訓的な作品と受け取る人もいるだろうが、僕の考えは違う」と、ミッチェルは言う。「ジェイは強い女性で、何も悪いことはしていない。好きな男の子とセックスしただけ。その後に起こったことは罪を犯したことへの罰ではなく、いわば現実との直面だ」
『イット・フォローズ』は、いつか必ず訪れる死と倫理をめぐる作品だ。誰かに「それ」をうつせば、自分は一時的に恐怖を逃れられる。その設定には、現実の性感染症が人間関係にもたらす問題の根源がある。誰かと寝れば病気でなくなるなら、あなたはどうするか......?
「セックスをする理由はさまざまだ」と、米家族計画連盟の教育部門副責任者レスリー・カンターは指摘する。「単純そうなのに、実はとても奥が深い。誰かと深く結び付きたいという願望からホルモンまで、あらゆることが理由になる」
だからこそ、ドストエフスキーだ。「人間は永遠には生きられない」。劇中に彼の小説を登場させたことについて、ミッチェルはそう語る。
「セックスや愛は、死への恐怖にのみ込まれないための方法だ。セックスや愛を通じて、人生には限りがあるという現実に折り合いをつけられる。映画の登場人物はおそらくそれに気付き始めたところだし、すべての人がその事実の中で生きている」
IT FOLLOWS
『イット・フォローズ』
監督/デビッド・ロバート・ミッチェル
主演/マイカー・モンロー
キーガ・ギルクリスト
日本公開中
[2016年1月19日号掲載]