紀里谷和明、ハリウッド監督デビューを語る
忠臣蔵を騎士の世界観で再現した『ラスト・ナイツ』で「僕が伝えたかったこと」
思いを胸に オーウェン演じるライデン(右から2人目)を中心とした騎士たちは、忠誠を誓った主君のあだ討ちに立ち上がる ©2015 Luka Productions
『忠臣蔵』をベースにした物語を、架空の封建国家に舞台を移して描いた映画『ラスト・ナイツ』が11月14日に日本公開される。クライブ・オーウェン、モーガン・フリーマンなどの名優を起用し、権力と腐敗、高潔な主君の死と騎士たちの復讐を重厚なドラマで紡いでみせる。
『CASSHERN』、『GOEMON』に次ぐ3作目で、ハリウッドデビューした紀里谷和明監督に話を聞いた。
――あだ討ちの場面に至るまでの、主君と家来の関係を描いた前半が冗長に感じられた。
実は、中盤にアクションシーンを1つ挟んでいた。たるいって言われるだろうなと思って。でもそうすると、主人公の気持ちの流れが途切れて見えた。いろいろ議論をした結果、最終的に僕の決断でカットすることになった。
アメリカではアクション映画として宣伝されていたが、本当は人間ドラマなんです。
――なぜいま『忠臣蔵』なのか。これまでも映画でたびたび描かれてきた題材だが。
まず『忠臣蔵』ありきではない。脚本を読んだらすごく面白くて、それがたまたま忠臣蔵をベースにした物語だったということ。そこには今の世界、特に先進国が抱える病が映されているように感じた。富と権力がすべてで、いろいろな策略をもって自分たちにそれが集中していくようにする。金融業界をはじめあらゆる組織やシステムがやっていることです。彼らが強大化していけばいくほど、民衆もそちらになびいていく。誰もがもっとモノを持たなくては、もっとお金を稼がなければならないと思い込む。
あとはそれとは違う価値観の人たち、日本で言う「道義」や心の部分でつながっている人たちがいて、その両方が非常にシンプルに描かれていた。それは『忠臣蔵』だけでなく、世界中のあらゆる物語で語り継がれている一種の王道だと思う。
――完成した脚本があって、「撮りませんか」と話が来た?
そうです。日本で撮影する英語劇の『忠臣蔵』ということで、登場人物の名前も大石内蔵助、浅野内匠頭、吉良上野介だった。素晴らしい脚本だったので「ぜひやらせてください」とお願いした。
ただ世界の観客に見せるとなると「切腹」とか「武士道」とか、いわゆる様式美に落とし込まれてしまう危険性があった。そうではなくて作品の本質を際立たせるには、普遍的なものにしなければならないと考えた。であれば、黒澤明監督が『乱』でシェークスピアの「リア王」を翻案したように、置き換えをやってみようと。
――日本で映画を撮るのとハリウッドで撮るのでは、違いを感じたか。
ハリウッドのほうがね、食事がすごく豪華(笑)。でもそれくらいで、あまり違いは感じない。もともとPV(プロモーションビデオ)やCMを向こうで撮っていたし、ずっとアメリカで暮らしていたので。カメラがあって、照明があって、役者がいて......と、やっていることは同じだし、みんな同じ映画人だから。