最新記事

映画

紀里谷和明、ハリウッド監督デビューを語る

忠臣蔵を騎士の世界観で再現した『ラスト・ナイツ』で「僕が伝えたかったこと」

2015年11月13日(金)17時10分
大橋 希(本誌記者)

思いを胸に オーウェン演じるライデン(右から2人目)を中心とした騎士たちは、忠誠を誓った主君のあだ討ちに立ち上がる ©2015 Luka Productions

『忠臣蔵』をベースにした物語を、架空の封建国家に舞台を移して描いた映画『ラスト・ナイツ』が11月14日に日本公開される。クライブ・オーウェン、モーガン・フリーマンなどの名優を起用し、権力と腐敗、高潔な主君の死と騎士たちの復讐を重厚なドラマで紡いでみせる。

『CASSHERN』、『GOEMON』に次ぐ3作目で、ハリウッドデビューした紀里谷和明監督に話を聞いた。

――あだ討ちの場面に至るまでの、主君と家来の関係を描いた前半が冗長に感じられた。

 実は、中盤にアクションシーンを1つ挟んでいた。たるいって言われるだろうなと思って。でもそうすると、主人公の気持ちの流れが途切れて見えた。いろいろ議論をした結果、最終的に僕の決断でカットすることになった。

 アメリカではアクション映画として宣伝されていたが、本当は人間ドラマなんです。

――なぜいま『忠臣蔵』なのか。これまでも映画でたびたび描かれてきた題材だが。

 まず『忠臣蔵』ありきではない。脚本を読んだらすごく面白くて、それがたまたま忠臣蔵をベースにした物語だったということ。そこには今の世界、特に先進国が抱える病が映されているように感じた。富と権力がすべてで、いろいろな策略をもって自分たちにそれが集中していくようにする。金融業界をはじめあらゆる組織やシステムがやっていることです。彼らが強大化していけばいくほど、民衆もそちらになびいていく。誰もがもっとモノを持たなくては、もっとお金を稼がなければならないと思い込む。

 あとはそれとは違う価値観の人たち、日本で言う「道義」や心の部分でつながっている人たちがいて、その両方が非常にシンプルに描かれていた。それは『忠臣蔵』だけでなく、世界中のあらゆる物語で語り継がれている一種の王道だと思う。

――完成した脚本があって、「撮りませんか」と話が来た?

 そうです。日本で撮影する英語劇の『忠臣蔵』ということで、登場人物の名前も大石内蔵助、浅野内匠頭、吉良上野介だった。素晴らしい脚本だったので「ぜひやらせてください」とお願いした。

 ただ世界の観客に見せるとなると「切腹」とか「武士道」とか、いわゆる様式美に落とし込まれてしまう危険性があった。そうではなくて作品の本質を際立たせるには、普遍的なものにしなければならないと考えた。であれば、黒澤明監督が『乱』でシェークスピアの「リア王」を翻案したように、置き換えをやってみようと。

――日本で映画を撮るのとハリウッドで撮るのでは、違いを感じたか。 

 ハリウッドのほうがね、食事がすごく豪華(笑)。でもそれくらいで、あまり違いは感じない。もともとPV(プロモーションビデオ)やCMを向こうで撮っていたし、ずっとアメリカで暮らしていたので。カメラがあって、照明があって、役者がいて......と、やっていることは同じだし、みんな同じ映画人だから。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

英インフレ期待上昇を懸念、現時点では安定=グリーン

ビジネス

アングル:トランプ政権による貿易戦争、関係業界の打
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中