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チェコ語翻訳者が語る、村上春樹のグローバルな魅力

40以上の言語に翻訳されるほど人気が高いのは「わかりやすい」から

2015年6月29日(月)19時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

国境を越えて チェコでも村上春樹を「知らない者はいない」と語る翻訳者のユルコヴィッチ

 村上春樹の作品が世界中で人気を博していることはよく知られている。アメリカやイギリス、フランス、ドイツ......それにアジアや南米の国々まで。世界の40を超える言語に翻訳されているのだ。毎年のようにノーベル賞候補に挙げられる村上は、間違いなく現代を代表する世界的作家だろう。

 その人気は、ヨーロッパの真ん中に位置し、美しい都プラハを擁するチェコでも変わらない。チェコは人口約1000万人。中欧の小国だが、フランツ・カフカ、カレル・チャペック、ミラン・クンデラなどの偉大な作家を輩出してきた。村上は2006年に、栄誉ある文学賞のフランツ・カフカ賞をプラハで受賞している。

 かの地での人気は、文学大国としての土壌ゆえだろうか。それとも国境を超えるハルキ人気の一例にすぎないのか。このほど『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のチェコ語版を刊行し、サントリー文化財団主催のシンポジウム講演者として来日したチェコ語翻訳者のトマーシュ・ユルコヴィッチに聞いた。

――チェコで村上春樹はどのくらい人気があるのか。

 英語圏、アジア圏、他のヨーロッパ圏と同様に、チェコにもファンが多い。チェコには私を含めて村上作品の翻訳者が2人いるが、その作品はすでに多くがチェコ語に翻訳されており、村上春樹を知らないチェコ人はほとんどいない。

 しかし、それはつい最近のことで、私が大学生だった2000年頃は誰も知らない無名の作家だった。したがってチェコでは、この15年の間に急速に知られるようになった作家といえる。

――なぜ村上作品は世界中で受け入れられているのか。

 よく言われることだが、まずはその文体・文章の易しさがあると思う。一般的に海外文学は文化背景の違いから、そのまま翻訳しても意味も文脈も通じないことがあるが、村上作品は逐語訳でほとんど問題がない。

中欧の文学大国で このほど刊行されたチェコ語版『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

中欧の文学大国で このほど刊行されたチェコ語版『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 私は谷崎潤一郎の本も翻訳しているが、谷崎に限らず、日本文学は言語的に主語や述語、目的語などが曖昧なことが多く、翻訳者泣かせだ。その点、村上の作品は文法的に曖昧なことが少ないため、翻訳中に文脈がつかめないことがほとんどない。

 これはチェコ語に限らず、どの言語で訳しても同じことが言えると思う。村上自身が意識しているのだと思うが、積極的にわかりやすい文章にしているのではないか。

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