最新記事

映画

ミッキーに買われたスター・ウォーズ

自分が死んでもスター・ウォーズには生き続けてほしい──ジョージ・ルーカスの悲壮な決意

2012年10月31日(水)17時59分
デービッド・トリフノフ

生みの親 ファンはエピソード7の公開を待ち望んできたが、監督はもうルーカスではない Mario Anzuoni-Reuters

 ジョージ、頼むよ。君はみんなを悲しませようとしている。ジャー・ジャー・ビンクスというキャラクターの失敗なんか、なかったことにしようというわけか?

 映画監督のジョージ・ルーカスは10月30日、自身の映画製作会社ルーカスフィルムをウォルト・ディズニーに破格の40億5000万ドルで売ると発表した。これにはスター・ウォーズやインディ・ジョーンズという人気シリーズに関する権利も含まれる。

 スター・ウォーズのディープなファンたちにとって、今回のルーカスの決断は衝撃的だ。売却について伝えるルーカスの語り口はまるで、ダース・ベイダーとの死闘の最中にライトセイバーの光を自ら消してしまったかのようだった。

「スター・ウォーズを新世代の映画製作者に引き継ぐべきときがきた」と、ルーカスはディズニーのウェブサイト上で語った。

「スター・ウォーズは私を超える存在になるといつも信じてきたし、私が生きている間にバトンタッチすることが重要だと思った。(映画プロデューサーの)キャスリーン・ケネディが指揮するルーカス・フィルムに加え、ディズニーという新しい家を得たスター・ウォーズは、間違いなく生き続け、今後何世代にもわたって愛されていく」

 なんと悲しい言葉だろう。だが、この言葉にも一理あるかもしれない。たとえば彼は、スター・ウォーズシリーズ第3作『ジェダイの復讐』と第4作『ファントム・メナス』の間、ファンたちを待たせ続けた。

 そうは言っても「たったの」16年間だ。そして16年待たせた挙げ句、ファンの前に現れたのは嫌われ者のジャー・ジャー・ビンクスだった。

 実際、時を経て制作されたエピソード1〜3の「新3部作」は、一部からは熱狂的に支持されたものの、多くの人にとってはがっかりな出来栄えだった。それを考えると、たしかにジョージはバトンを渡すべきなのかもしれない。だが、ディズニーに? ミッキーマウス、君は本当にそれでいいのか?

 もちろん、ルーカスを責めることはできない。彼は今や68歳だし、買収によって20億ドルの現金とディズニーの株式約4000万株も手に入れられる。それにルーカスは新作の映画製作にもクリエイティブ・コンサルタントという肩書で関わることになっている。その新作だが、今後はものすごいペースで次々と制作されるらしい。

 次回作の「エピソード7」はさっそく、2015年に公開されるという。興奮を抑えきれないじゃないか。何といってもエピソード7だ。「エピソード7」なんていう短い言葉の裏には、本当に多くの期待が詰まっている。

今後は2〜3年ごとに新作

 ディズニーにとって、今回の買収はかなりのお買い得だ。スター・ウォーズもインディー・ジョーンズも、『THX1138』も手に入れたのだから。

 おっと、もちろん最後のは冗談だ(このルーカスのデビュー作は興行的に失敗に終わった)。

 だが実際のところ、この「たった数十億ドル」の買収のうま味は、ルーカス・フィルムが所有する数々の関連会社がついてくるところ。大手ゲーム会社ルーカスアーツや特撮工房インダストリアル・ライト&マジック、映画製作会社スカイウォーカー・サウンドなどで、いずれもおいしすぎるおまけだ。

「ルーカス・フィルムには創業者であるジョージ・ルーカスの並外れた情熱とビジョン、物語が反映されている」と、ウォルト・ディズニー社のロバート・アイガーCEOは語った。「今回の取引で、史上最高のファミリー向けエンターテイメントの1つであるスター・ウォーズを含む世界規模のコンテンツと、比類なきディズニーの創造性との融合が実現する。両者がさまざまなプラットフォームやビジネス、マーケットで融合することで、持続的な成長と長期的な価値がもたらされるだろう」

 必ずや実現するに違いない。ミッキーマウスの耳に誓ったっていい。

 2015年(たったの3年後だ!)のエピソード7以降は、2〜3年ごとに新作が発表されるという。もちろん(CGを駆使した)実写映画だ。スピンオフのアニメ作品『クローン・ウォーズ』みたいにおかしな作品はもう登場しない。

 そしてディズニーワールドやディズニーランドを抱えるディズニーだけに、スター・ウォーズのテーマパークやアトラクション、グッズが登場しても驚きではない。もしかすると、人気キャラクターのチューバッカが、ついに彼にふさわしい主役の座をつかむかもしれない。

 ジョージ、君が去ってしまうのを見るのは悲しい。でも、君がオビ=ワン・ケノービやアナキン・スカイウォーカー、ヨーダのように、フォースとともにある存在になって再び現れるのを心待ちにしているよ。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックスのコロナワクチン、米当局が追加データ要

ワールド

日米財務相、会談実現なら為替議論へ=林官房長官

ワールド

赤沢再生相が30日から訪米へ、トランプ関税巡り再交

ビジネス

米政権、中・大型トラック輸入巡り調査開始 追加関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中