最新記事

トレンド

バンパイアに抱かれたがる女たち

2009年11月11日(水)15時29分
ジョーン・レイモンド

最高のセックスを求めて

 ブームの担い手も同じように思っている。吸血鬼ハンター『アニタ・ブレイク』シリーズの作者ローレル・ハミルトンのみるところ、吸血鬼の魅力のカギは「牙とセックスとエクスタシー」だ。「吸血鬼とのセックスは女性が経験できる最高のセックスだと、読者は思っている」

 それはそうだろう。「たいていの吸血鬼は、何世紀も練習しているのだから」と、『トゥルー・ブラッド』の原作者シャーレイン・ハリスは言う。おまけに彼女の作品に登場する吸血鬼は、生き血を吸うわけではなく、街角で人工血液を買う。人間社会にもすっかり溶け込んでいる。

 それでも吸血鬼の持つ最大の魅力は永遠の命だと、ハリスは考えている。「現代では、若さを保つことが強迫観念になっている。吸血鬼は年金やリウマチの心配をしなくていい」

 吸血鬼をセクシーに見せる大きな要素は「死の臭い」だ。「吸血鬼の神秘性は90%が性的なもの」と、デセルス大学(ペンシルベニア州)のキャサリン・ラムズランド教授(心理学)は言う。「吸血鬼は危険なセックスのメタファー。一歩間違えたら、死んでしまうのだから」

 ラムズランドは本を執筆するために、過激な吸血鬼ファンを詳細に調査した。まさに吸血鬼に取りつかれた女性たちだった。弁護士や政治家のような専門職もいたし、人生に迷っている人もいた。

 ラムズランドが驚いたのは、彼女たちの大半が吸血鬼を退治する側になりたいわけではなく、彼らに襲われたいという願望を抱いていたことだ。「相手に好きにされたいと思っている女性がこんなに多いなんて、ちょっと奇妙な感じがする。女性はもう少し進歩したと思っていたのに」

 インターネットの掲示板やチャットルームをのぞくと、「襲われたい願望」がブームの根底にあることがよく分かる。「誰かに支配されても構わないと思っている女性がとても多いみたい」と、トゥルー・ブラッド・ドット・ネットを運営するメリッサ・ロワリー(34)は言う。

 いま彼女のサイトには、1カ月に14万人以上が訪れる。書き込みを3700件ほど読んだロワリーは、頻繁に出てくるテーマがあることに気が付いた。

「紳士的で優しくて、自分の恋人だったとしても、吸血鬼には人の脚を食いちぎる力がある」と、ロワリーは言う。「女性はそんな存在に守ってもらいたがっているのかもしれない。だとしたら、そんなに変な話じゃない」

危ない感じがたまらない

 吸血鬼ブームは、思春期の不安に関係があるかもしれない。そう指摘したのが、ハーバード大学医学大学院のスティーブ・ショルツマン准教授(精神医学)。彼は「吸血鬼と彼らを殺す者たち」と題する論文を学術誌に発表した。

 ショルツマンはドラマ『バフィー~恋する十字架~』に、誰もが思春期から引きずるテーマが盛り込まれていると指摘する。あるエピソードに、透明人間になった女性吸血鬼ハンターのバフィーが、スパイクという名の吸血鬼を性的にからかうシーンがある。ショルツマンに言わせれば、これは思春期的な性への憧れのメタファーで、ファンは吸血鬼にそれを投影している。「セックスはしてみたいけれど、吸血鬼としたがっているなんて誰にも知られたくない。でも、きっと楽しそう」という気持ちに重なるのだという。

 ニューヨークに住むマーリーズ・エンジェル・トレイバー(25)には、ショルツマンの言いたいことがよく分かる。彼女は10代のときに『バフィー』に夢中になって以来の吸血鬼ファン。『トワイライト』は全巻読破したし、映画も3回見た。日曜の夜には、夫と一緒に『トゥルー・ブラッド』を欠かさず見る。

 彼女が魅力を感じるのは、吸血鬼の持つ「危ない感じ」だ。「恋人にするなら『トワイライト』の吸血鬼、それ以外なら『トゥルー・ブラッド』の吸血鬼が好き」と、トレイバーは言う。「映画で見たことが現実になるってこともあるわよね」

 夫のトムは、彼女が吸血鬼ファンであることを気にしていないという。本当だろうか。吸血鬼の結婚カウンセラーが登場するのも、時間の問題かもしれない。

[2009年8月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中