セックスと愛とシングルライフ
本音で生きるヒロインが女性の共感を呼び劇場版も登場したドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』、過激な性描写も売りだが、案外ストーリーは保守的?
社会現象 アメリカで1億5000万ドル以上の興行収入を記録した劇場版『SATC』の撮影現場
Brendan McDermid-Reuters
「エキサイティングな体験をなさると思います」と、バスガイドのエミリー・スプロッチ(28)はマイクを通して乗客に語りかける。
マンハッタンのウエストビレッジを走る観光バスの中、片手を胸に当てて話すスプロッチの口調に真剣さが増す。「泣いてしまう人もいるかもしれません。とても素敵な所です。でも落ち着いて、騒がないようにしましょうね」
バスが止まり、スプロッチについて乗客たちが降りる。さまざまな年齢の女性たちに、男性の同性愛カップルがひと組。つき合いで女性に連れてこられた男性たちは退屈そうだ。マグノリア・ベーカリーのカップケーキの甘い匂いが漂うなか、彼らはペリーストリートに向かう。
一行が足を止めたのは玄関ドアの前に階段がついた建物の前。キャリー・ブラッドショーの家だ!
ここはテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)』の主人公の一人、キャリーが住むマンションとして撮影に使われた建物の玄関。彼女がデートの相手に別れを告げた後でピンヒールの音を階段に響かせたり、男を部屋に招き入れたり、寝る相手を決めたりした場所。ここで彼女は、タバコをふかし、酒を飲み、口論し、泣いた。
ツアー一行は押し黙って、手早く記念写真を撮りはじめる。立ち尽くして涙を流している人も多い。キャリーは、ファッショナブルでセクシーで自立した独身女性の象徴だ。この「聖地」を訪れる人は毎年、推定5万人にのぼる。熱心なファンはオーストラリアや日本からもやって来る。
今年5月、映画版『SATC』がアメリカなどで公開されると、大きな注目を集めた(日本公開は8月23日)。『SATC』について、革命や反乱といった言葉を使って熱っぽく語る人も多かった。
『SATC』はもともとテレビドラマとして大ヒット。98〜04年に米ケーブルテレビHBOで放映され、七つのエミー賞を受賞した。200カ国でオンエアされ、現在も多くの地で再放送されている。
ドラマの放映開始から10年たった今、ヒロイン4人のうち3人は40代、1人は50代に入った。それでも、ファンは増え続けている。