最新記事
BOOKS

唯一無二の文章を書くために注意する1つのポイント...「としたもんだ表現」のバイアス【新聞記者の文章術】

2024年9月11日(水)12時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

一見「常套句」に見えない「常套句」亜種に注意する

次は、全国紙に載った書評の一部だ。

〈そもそも何故キリンの首は長いのかという疑問から出発し、最もキリンに近い動物がオカピであることを教えてくれて、大型動物の解体・骨格標本作成を通して未知の世界の扉を開けてはわかりやすく説明してくれる。

著者と共に解剖学の論文を読み解き、世紀の大発見につながる研究テーマを獲得するくだりは、非常にワクワクした。郡司さんのキリンへの愛が本からこぼれ出てくるようで、愛いとしい気持ちもお裾分けしてもらった。〉

ここにいわゆる「常套句」はいくつあるだろう。常套句はない、と思う読者もいるだろう。しかし、わたしだったら、推敲の段階で「この表現は削るか、再考する」という箇所が、短い文章に少なくとも五カ所ある。

・未知の世界の扉を開けては
・世紀の大発見
・非常にワクワクした
・愛が本からこぼれ出て
・愛しい気持ちもお裾分け

たしかに、文意は通じている。よく見る表現でもある。ひとつひとつを解説しないが、たとえばいちばん簡単な「非常にワクワクした」。

ワクワクするという擬態語の使用に疑問符がつくのは当然として、ワクワクの前の「非常に」が、わたしにはひっかかる。ワクワクするときは、必ず、いつでも、「非常に」ワクワクするものではないのだろうか。強調の形容語とセットになって使うことが常套的になっているのではなかろうか。

新聞では「としたもんだ表現」が多用される

もう一歩進む。常套句とは、「美しい海」「燃えるような紅葉」という、ありきたりな形容や比喩表現だけではないことに注意が必要だ。常套句の派生として、「としたもんだ表現」というのもある。

〈年末の東京・表参道。都内の私立大3年の女子大学生(21)は、イルミネーションの中、黒いリクルートスーツ姿で歩いていた。〉

全国紙の新年連載で、第一回を飾った文章の書き出しだ。新年の新聞一面に載る大型連載というのは、記者にとって晴れがましい舞台であり、どんな新聞でも、もっとも力を入れる記事である。その書き出しが、冒頭の一文だ。

記者はもちろん、「デスク」といわれる文章の直し役も、見出しを付ける整理記者に校閲記者、社会部長や編集局長ら新聞社幹部、多くの人間が目を通して、この文章になったのだ。

わたしはこれを、「としたもんだ表現」と呼んでいる。新聞の、ストレートニュースではなく、読みものとしてのルポルタージュは、こうやって書き出す「としたもんだ」。そういう共通認識が、記者のあいだである。その、典型的な例という意味である。

新聞とは、そうしたもんだ。読みものはこうやって書き出すとしたもんだ。新聞業界の長年の手癖のような文章だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ワールド

再送-ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 買春疑惑で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中