最新記事
日本経済

円高進行で日本経済は再び窮地に? キャリー取引の影響を探る

Crashing Global Markets

2024年8月20日(火)12時30分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)
為替相場の変動と日本経済の未来 Paris Bilal-Unsplash

為替相場の変動と日本経済の未来 Paris Bilal-Unsplash

<パニックの「犯人」は円キャリー取引の一斉撤退。「1ドル=115円台」に戻るなら日本経済はどうなる?>

8月5日、世界の株式市場が小さなクラッシュ(急落)を起こした。その原因を1つに絞ることはできないが、外国為替市場を舞台とする投資戦略である円キャリー取引が重要な「犯人」の1つであるのは間違いないだろう。

円キャリー取引とは、低金利通貨(例えば円)で資金を調達して、高金利国の通貨(例えば米ドル)で運用して利益を得ようとする手法。金利差を利用するから、うまくいけばコストゼロで利益を生めるため、金融トレーダーから企業、さらには個人まで幅広い投資家に利用されている。


現在、日本の短期金利は0.5%以下で、アメリカは約5.5%。この金利差を利用すれば、独自の投資をしなくても、4%の利益を生み出せることになる。

唯一の弱点は、為替相場の変動だ。突然大幅な円高が起きると、借り入れていた円資金の返済により多くのドルが必要になり、場合によっては、それまでの金利差収益を失い、損失が拡大する恐れがある。

「こうした市場の動揺は、いわゆる混雑した取引(この場合は円キャリー取引)の参加者が、市場から一斉に出ていこうとするときに起こる。このため急激な下落が起きて、市場心理に影響を与えることもある」と、元メリルリンチ日本証券のベテラントレーダーである関満一郎は言う。

「円キャリー取引が続くためには、ボラティリティー(変動幅)が小さいことが必須条件になる。その点、日本銀行と財務省の方針が予測しやすいことと日本経済の不振が、円キャリー取引の拡大を助けてきた」と関満は指摘する。

その全てが8月5日に崩壊した。円が急伸して、株安が起こり、それが円ショート(円の売り持ち、つまり円がもっと下がるという賭け)の巻き戻し拡大につながった。

これが円の急騰につながり、7月9日に1ドル=161円台まで下がった円相場は、8月5日のアジア市場終了時には142円台と12%も上昇した。この1年の円キャリー取引の金利差収益を吹き飛ばすに十分の上げ幅だ。市場から撤退する動きがますます激しくなったのは無理もない。

この流れの触媒となったのが、その1週間前の日銀による利上げだ。7月31日、日銀は、政策金利である短期金利の誘導目標を引き上げるとともに、国債の買い入れ額を大幅に減らすという2つの措置を講じて市場を驚かせた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米自動車関税、企業は価格設定で難しい選択に直面=地

ビジネス

米自動車株値下がりでテスラ「逆行高」、輸入関税影響

ワールド

カナダ首相、あらゆる選択肢検討へ トランプ関税への

ワールド

プーチン氏、ウクライナを暫定統治下に置く可能性示唆
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 4
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」に…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 8
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中