具体と抽象を意識するだけ...インプット力とアウトプット力を伸ばす思考法【頭をよくする】
頭の働きは一方通行ではなく往復運動だ
頭の働きに2つの「方向」があることは、見落とされがちだが重要だ。新幹線が便利で世の中に貢献している理由は、もちろん移動速度が速いからである。が、上りと下りの2方向で走っているという前提を見落としてはならない。
東海道新幹線が大阪から東京への一方通行だったら、どんなに速くても非常に使いにくく、役に立たない乗り物になっていただろう。新幹線は、往復できるから価値がある。同じように、頭の働きは2つの方向がセットで価値を生み出していくのだ。
学校で求められるインプット力とは何なのか? 社会で求められるアウトプット力とは何なのか? いきなりだが、結論を言おう。
インプット力とは、「抽象化能力」のことである。
アウトプット力とは、「具体化能力」のことである。
抽象化とは:抽象という言葉はなぜわかりにくいのか
こう言うと、単に言葉を変えただけで、むしろその言葉もわかりにくくなったように感じるかもしれない。特に「抽象」という言葉である。「抽象」という言葉は、「その話は抽象的でわかりにくい」「現代美術は抽象的すぎてわからない」というように、ほとんどの場面で「わからない」とセットで使われる。それほどわかりにくい。
辞書にはこのように載っている。「事物や表象を、ある性質・共通性・本質に着目し、それを抽ひき出して把握すること」(三省堂、大辞村)。こんな表現からは、わかりやすさやおもしろみを感じることは難しいと思う。しかし、この言葉は人間の「思考」を解き明かすキーワードであり、本書のメインテーマでもある。
まずは、この「抽象」という言葉を、例を挙げて説明しよう。たとえば、「イヌ」という言葉がある。イヌと聞いて思い浮かべるのはどんなイヌだろうか? イヌにはブルドッグやチワワ、トイプードル、ゴールデン・レトリバーなどいろんな種類がある。もしイヌと聞いて「チワワ」の姿を思い浮かべたなら、それは「イヌ」から「チワワ」に具体化したことになる。言い方を変えると、「イヌ」から「チワワ」に情報の抽象度を下げたのだ。
具体化とは:大きな主語を小さくすること
さて、チワワにもいろいろいる。もしあなたがチワワを飼っていて、その名前がポチというとする。イヌと聞いてうちのポチを思い浮かべたならば、「イヌ」を具体化した「チワワ」という情報をさらに「うちのポチ」に具体化したということになる。チワワは日本国内だけで何万匹もいるが、うちのポチはその多数のチワワの中でただ1匹である。
このようにして、「イヌ」から「うちのポチ」まで思考を至らせるプロセスが「具体化」で、その反対が「抽象化」だ。「うちのポチ」と言うとただ1匹の特定の存在を指し示すことしかできない。しかし、「チワワ」と呼んで抽象化すると、一気に何万匹もいるチワワを指し示すことができる。
さらに抽象度を上げて「イヌ」と呼ぶと、指し示す範囲がもっと広がる。ブルドッグやゴールデン・レトリバー、その他のいろいろな犬種や雑種を含む(日本国内だけで)数百万匹のイヌを、「イヌ」というひとことで指し示したことになる。
さらに抽象度を上げて「生物」と呼べば、イヌだけでなく、ネコや魚、人間など多くのものを含んでひとことで言い表すことができる。
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