日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待った」をかけたバイデンの「本音」
Can A Deal Be Made?
ペンシルベニア州クレアトンにあるUSスチールのモン・バレー製鉄所 AP/AFLO
<日本製鉄による買収・子会社化に、官民挙げて「NO」の大合唱。だが労組さえ合意すれば、いつでも「YES」に転じる>
かつての鉄鋼王国アメリカの象徴ともいえる会社USスチール(1901年創業)を、日本企業(日本製鉄)が買収して子会社とする──ある意味「歴史的」ともいえるこの案件で、両社が合意に達したのは昨年12月のことだ。
しかしジョー・バイデン米大統領は去る3月14日の声明で、USスチールが「今後もアメリカ企業であり続け、国内で所有・運営されていくことは死活的に重要」だと述べて買収に待ったをかけた。今秋に迫る大統領選で苦戦を強いられているバイデンとしては、少しでも支持率を回復したい思いがあったのだろう。実際、翌週にはUSW(全米鉄鋼労組)がバイデン再選支持を正式に表明している。
ただしUSWは、今回の買収提案を頭から否定してはいない。今も買収を承認するために必要と考える条件を満たすべく、水面下で日本製鉄との交渉を続けている。交渉は難航が予想されるが、どちらも本気であり、11月初めの大統領選までには合意に達したいと考えている。
合意すれば、バイデンは前言を翻して買収支持に転じることができる。政府の対米外国投資委員会(CFIUS)も、おそらくゴーサインを出す。ちなみに日本勢による米企業の買収をCFIUSが阻止した例は過去に一度もない。
両社の合併話が初めて公になった際に、ホワイトハウスは型どおり、CFIUSが国家安全保障やサプライチェーンの観点から本件を精査するとの声明を出した。しかし買収反対とは言っていない。下手に口を出せば日米関係に傷が付くし、それで中国が図に乗れば、東アジア全域の安全保障が脅かされる。
だからバイデン政権としては、日本製鉄との協議を通じてUSWが買収提案を受け入れることを望んでいる。ただし、話がつかなければ買収を阻止する。それでドナルド・トランプの大統領復帰を防げるなら、少しくらい日米関係に傷が付いてもいい。それがバイデン政権の本音だ。
ちなみに、日本の岸田文雄政権はひたすら沈黙を守っている。余計な緊張は招きたくないからだ。
幸いにして、日本製鉄とUSWは2月下旬に秘密保持契約を結んだ。これで本気の秘密交渉に入る法的な手続きが済んだ。そして3月7日には、日本製鉄の森高弘副社長がUSWのデビッド・マッコール会長を表敬訪問している。森は今回の買収プロジェクトを率いる立場にある。この初会談について、USWは「何の進展もなし」という厳しい評価を下しているが、この手の交渉で労組側が強気に出るのは毎度のことだ。