真の復興支援を問う... 北陸応援割の「便乗値上げ」にまちづくりの専門家が全力で賛成するワケ
税金による割引サービスの長所と短所
クーポンで旅行商品価格を割引く取り組みは、消費喚起策としても用いられる税金による割引サービスの一種です。2011年に発生した東日本大震災後、あるいはコロナ禍に実施された「GoToトラベル」、最近では熊本地震(2016年4月)後にも実施されています。
このようなクーポンは、税金の活用方法としてはコスパの良いものです。
例えば、政府が5000円のクーポンを配り、客がそのクーポンを利用して1万5000円の旅行商品を購入すれば、簡単に言うと3倍の経済効果を生み出すことができます。クーポン配布はレバレッジが効く方法なのです。
だから政府や地方自治体は、消費喚起策としてこの手のクーポン企画をやりたがるのです。自治体がPayPay割をよく行っているのもその理由です。
しかし、税金で割引した結果、旅行者が増えて宿泊施設が満室となり「よかったよかった」となるかと言えば、そんな単純ではないのです。
特に普段から良いサービスを提供し、しっかり付加価値を付け、値段を苦労して引き上げてきた事業者ほどバカをみます。
「GoToトラベル」で発生した宿泊施設の阿鼻叫喚
まず安売りをして何が起こるか。客筋が変わるのです。
「GoToトラベル」では、設備やサービスに投資をしてきた高級宿に、普段は泊まらないような客が押し寄せました。
知り合いの宿では大浴場のアメニティに、オーストラリアの化粧品会社Aesop(イソップ)の高価なソープやボディークリームを置いていたのですが、それらが軒並み盗まれたり、ダイソンのドライヤーが盗まれたりと散々な結果になりました。
さらに、態度の悪い客が増加して、常連客から「なんであんな人たちが泊まっているのか」「大浴場で一緒になったけど大声をあげていて怖い」というクレームが入る始末です。
その高級宿は、一過性の復興支援・安売りに付き合ったばかりに、普段から真っ当な料金を支払ってくれる常連客を失うリスクまで抱え込むことになりました。
だから値上げをして顧客層を調整するようになったのです。皆がクーポン利用時で普段と変わらない金額に変え、サービス部分や食事をより良くしたりする工夫をするようになったのです。
実際に支払う金額で客筋は大きく変わります。単に儲けたいから値上げをしているだけではないのです。
言いたくないことですが、地獄の沙汰も金次第。安さを求める客にろくな客はいません。だから事業者は客を選別するために金額を設定しています。
クーポンが利用できる期間だけでなく、長期的な顧客との関係を考えた上で合理的に判断しているのです。