米金融当局が実行細則案を公表「バーゼル3最終化」とは何か?
米連邦準備理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)、米通貨監督庁は27日、「バーゼル3最終化」の実行細則案を公表した。写真はドル紙幣。3月撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)
米連邦準備理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)、米通貨監督庁は27日、「バーゼル3最終化」の実行細則案を公表した。11月末まで関係者から意見を集め、2028年半ばまでに完全実施する計画だ。
この提案に基づくと、米銀行業界全体で16%の資本上積みが必要になる。今年春に起きた3件の銀行破綻も踏まえた新たな銀行監督厳格化の取り組みという側面も持つ。ただ業界からは既に、非常に負担が大きいので各種サービスの縮小や手数料引き上げなどに動かざるを得ないといった批判の声が出ている。
提案は、銀行業務で生じるリスクを適切に計測し、それに応じた資本の手当てを義務化。具体的には融資、トレーディング、内部管理などのオペレーションのリスクを切り分け、一部では従来認められていた内部モデルによるリスク測定を禁止し、代わりに標準化モデルを使用するよう求めている点などが主な特徴だ。
また以前には厳しい監督の対象にならなかった資産1000億ドル以上の中堅銀行にも、保有する売却可能証券の含み損益の測定や、より厳格なレバレッジ要件の順守などが義務付けられる。
◎バーゼル3最終合意とは
バーゼル銀行監督委員会が、2007―09年の世界金融危機の教訓を踏まえて策定したバーゼル3には、銀行の資本やレバレッジ、流動性に関するさまざまな要件が盛り込まれている。世界各国の規制当局は何年もかけて、これらの要件実行に向けた細則を取りまとめてきており、「最終化」部分は17年に合意された。
最終化は、バーゼル委が進めてきた銀行の事業のリスク性に基づいて資本要件を設定するというアプローチを精緻化した内容。
◎信用リスク
米規制当局は、住宅ローンや企業向けローンなどの融資事業のリスクに対してどれだけの資本を手当てするかを判断する際に、これまで認められてきた内部モデルの使用を禁止する。
連邦準備理事会(FRB)のバー銀行監督担当副議長は、内部モデルはリスクを過小評価しがちだと発言している。銀行側に資本コストを低い水準に保ち続けたいという動機が働くためだ。大手行は今後、信用リスクに統一化されたモデルの使用が義務付けられる。
◎市場リスク
大手行には、市場の価格変動やトレーディングで生じる損失に伴うリスクの算定に関しても新たな基準が導入される。規制当局によると、現在のトレーディングリスクは実態よりも小さめに示されているという。
こうしたリスク算定において、銀行は当局のお墨付きをもらった内部モデルは使用が認められるが、バー氏は特定の複雑なリスクには標準的なモデルが必要になるかもしれないと指摘している。トレーディングのリスクは総量ではなく、個々の担当部署レベルで算定しなければならなくなる。
結局、全体的には、トレーディング事業の規模が大きい銀行の資本要件は厳格化されるだろう。
◎オペレーショナルリスク
バーゼル3最終化で新たに定められた重要な領域の一つが、オペレーショナルリスクの算定だ。このリスクは、内部管理や経営の失敗、訴訟コスト、対外イベントなど予想外の事態に起因して生じる損失を指す。
信用リスクと同じく、当局は内部モデルの代わりに標準化モデルによる算定を求めることになる。
一方、銀行側は、こうしたアプローチはクレジットカードや投資銀行手数料など非金利収入に大きく依存する一部の銀行にとってコストが大幅に増大しかねないと警告している。これらの収入はオペレーショナルリスク算定に使われるモデルに含まれており、何らかの是正措置を講じなければ、不相応なほどに資本要件が高まる金融機関が出てくる恐れがあるという。
◎銀行が不安視する理由
一連のルールは長年にわたって策定作業が行われてきたが、銀行はずっと米規制当局がどこかの部分で資本規制の緩和策を提供してくれると期待していた。
各行の資本基盤は充実し、新型コロナウイルスのパンデミックを乗り切った上に、FRBが毎年実施するストレステスト(健全性審査)に合格してきたので、資本要件引き上げは正当化されない、というのが銀行業界の理屈だ。
バー氏も今月、ほとんどの銀行は既に各種要件を十分に満たす資本を確保しているとの認識は示している。
しかしバイデン大統領に選ばれ、全員が民主党員でもある現在の規制当局幹部は、今のところウォール街に対して甘い顔をしようとする動きはほとんど見られない。今年になって3件も銀行破綻が続き、これはかつてないほど厳重に銀行業界を監視する必要があるという証拠だ、と彼らは訴えている。