斜陽デトロイトは「デジタル」で蘇る──先端技術の集積拠点として台頭
MICHIGAN MOVES UP
ソフトウエアとデジタルテクノロジーが自動車産業の在り方を変えつつある AERIALPERSPECTIVE IMAGES/GETTY IMAGES
<EV、自動運転車、コネクテッドカー......。かつて閑古鳥が鳴いた米自動車産業の都・ミシガン州が、先端技術の集積拠点として台頭している>
電気自動車(EV)の駆動系やバッテリーに始まり、IT端末としての機能を持つコネクテッドカーや自動運転車向けのさまざまなハードウエアやソフトウエアに至るまで、アメリカの自動車メーカーは長年、デジタルテクノロジーの開発に巨額の資金をつぎ込んできた。
最近目立ち始めているのが、アメリカ自動車産業の原点の地であるデトロイトを擁するミシガン州への投資の流入だ。フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、ステランティス(クライスラーやジープなど14の自動車ブランドを傘下に置く多国籍自動車メーカー)はいずれも、ミシガン州での技術開発プロジェクトに投資している。
これまでアメリカ自動車産業の投資の多くは、シリコンバレーなどテクノロジー産業集積地に流れていた。例えばフォードは2016年、カリフォルニア州パロアルトにグリーンフィールド研究所を設立し、地元のスタートアップ企業との協働と、自動車関連テクノロジーの実用化支援に乗り出した。
フォードは17年にも、ペンシルベニア州ピッツバーグの自動運転車関連テクノロジー企業であるアルゴAIに10億ドルを投資した(ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンと配車サービス大手のリフトも出資したが、アルゴAIは昨年閉鎖された)。
しかし近年、フォードはお膝元のミシガン州に目を向け始めている。同州ディアボーンの本社から近いデトロイトで大規模な投資を始めたのだ。具体的には、18年にデトロイトのミシガン中央駅(1988年に廃業して廃墟になっていた)を買い取り、EVや自動運転車の研究拠点にする計画だ。昨年2月には、グーグルもこのプロジェクトに加わった。
フォードがこれまでミシガン中央駅再開発事業に投資した金額は、総額7億4000万ドルに上る。同社は昨年6月、さらに20億ドルを投資し、ミシガン州に3200以上の新規雇用を生み出す計画も明らかにした。
「ビジネス上のニーズの変化に伴って、自動車メーカーと部品メーカーの投資の在り方が変わってきた」と、調査会社S&Pグローバル・モビリティの首席アナリスト、ステファニー・ブリンリーは本誌に語っている。
「ミシガン州でのプロジェクトの一部がコロナ禍で予定より遅れたことは事実だが、方針はずっと前に決まっていた。シリコンバレーでの研究開発に対する最初の投資は、あくまでも予備段階のものだった。当時は自動車メーカーも部品メーカーも、どんなことを知っておく必要があるかさえまだ分かっていなかった」