政府はインフレによる利益で債務危機を回避せよ
NO IMMINENT CRISIS
欧州中央銀行も大幅利上げに踏み切った FRANK RUMPENHORST-PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES
<金融危機の前提条件はそろっているが、これまでのところ市場の変動は限定的でその懸念は少ない。現在は2007年と違い、物価上昇により、債務の実質価値が減少している>
世界の主要な中央銀行が、競うように金融引き締めを打ち出している。
いつもは慎重なECB(欧州中央銀行)も、利上げのペースを速めているFRB(米連邦準備理事会)を追いかけるように政策金利を0.75ポイント引き上げた。ユーロが誕生した1999年以降、最大の上げ幅だ。
こうした動きに金融市場は予想どおりに反応し、株式市場と長期債券価格が急落した。ただし、金融危機が迫っているわけではなさそうだ。
確かにウクライナ戦争、エネルギー価格の高騰、急激なインフレが絡み合い、世界の債務残高は前回の金融危機の直前よりはるかに多い。新型コロナ不況でほぼ全ての国の公的債務が増加し、先進国の平均は20ポイント増えてGDP比120%を超えている。
このように金融危機の前提条件はそろっているが、これまでのところ市場の変動は限定的だ。今回は何が違うのだろうか。
2007年は、リスクプレミアム(危険資産の期待収益率から安全資産の収益率を引いた差)の上昇と低インフレのダブルパンチが債務者を直撃した。
現在は対照的に、インフレ率が急上昇して、債務の実質価値は減少している。
物価水準が15%上昇すると、債務残高のGDP比が120%の国は債務の実質価値がGDP比で約18ポイント減少し、パンデミックによる20ポイントの増加分がほぼ相殺される。このシナリオは十分に現実的だ。
アメリカとユーロ圏はインフレ率が10%に達する勢いで、来年はさらに5%上昇する見込みだ。
中央銀行の動きにもかかわらず、インフレ率は依然として金利をはるかに上回っている。市場が織り込み済みだった金融引き締めの実施後も、政府や企業は実質金利がマイナスの状態で新たな債券を発行できる。
従って、2009年にユーロ圏を襲ったような債務危機が発生する可能性は低い。
短期的視点はもう通用しない
財政の持続可能性は、いわゆるスノーボール効果に大きく作用される。利払い費用が名目GDP成長率を上回ると、債務比率は上昇するのだ。
逆も同様で、現在は、インフレのおかげで名目成長率は金利コストを4.5ポイント上回る水準で推移すると予想される。これは債務比率の引き下げにつながるだろう。
ただし、市場が神経質にならないわけではない。その好例が、イギリス政府の「財源の当てがない減税政策」をめぐる最近の金融市場の混乱だ。