最新記事

欧州

ドイツを襲うロシアの天然ガス供給中止 広がる企業倒産の波

2022年9月26日(月)10時17分

保護か競争か

IWH経済研究所によると、8月に債務超過に陥ったドイツ企業は718社と、前年同月比で26%も増えた。9月の増加率も25%前後で高止まりし、10月には33%に上昇するとIWHは予想している。

IWHのシュテフェン・ミュラー氏は「債務超過企業の数は長年、低水準を維持していたが、トレンドが転換した」と述べた。

ドイツ産業連盟(BDI)が593社を対象に実施した調査では、エネルギー高により存続を脅かされていると答えた割合が3分の1を超え、2月の23%から増えた。

ドイツ化学産業協会(VCI)のウォルフガング・グロッセ・エントルプ会長は20日、ロイターに「(ドイツが)世界筆頭の産業国から産業博物館に転じてしまうまでの距離が今ほど短くなったことはない」と警鐘を鳴らした。

主要信用機関が8月に実施した調査によると、ドイツの不良債権は今年の319億ユーロから、来年は376億ユーロ(377億ドル)に増える見通しだ。

ドイツ貯蓄銀行協会のヘルムート・シュレワイス会長は8日の銀行業界の会合で「パンデミック中でも顧客企業は破綻の波を経験しなかった」が、「今はそうした事態を排除できなくなった。まだ計測できていないのは、その規模だけだ」と述べた。

フランクフルト金融・経営大学院のクリストフ・シャラスト教授は、パンデミック中は政府が支援措置を講じたため不良債権が大幅に増えなかったと指摘。「しかし現在は様相が大きく異なる。インフレ、サプライチェーン(供給網)の混乱、ウクライナに対する侵略戦争、利上げといった他の要因もあるからだ」と語った。

もっとも、債務超過件数の増加を見て誤った結論を導き出すべきではない、と釘と刺す専門家もいる。

パンデミック期の2020―21年には債務超過件数が人為的に低く抑えられていたため、当時との比較で現在の数字が悪く見えている可能性があるというのだ。当時は政府が経営難の企業を支えるとともに、債務超過企業に民事再生申請を義務付ける法律が一時停止されていた。

しかも政府データで見ると2021年の債務超過件数は1万4000件弱と、世界金融危機だった2009年の3万2687件、2003年の3万9320件に比べると半分に満たない。

不良債権は増える見通しだが、専門家によると金融業界のムードは比較的落ち着いている。企業破綻の急増を防ぐために政府が介入することを見越しているという。

再生専門家のルーカス・フルーター氏はロイターに、政府はビジネスモデルが根本的に不健全な企業まで税金を投じて保護すべきではないと指摘。「エネルギー危機は多くの企業のビジネスモデルに疑問を投げかけた」と語った。

フルーター氏はブッシュマン法相の債務超過基準緩和案を歓迎しつつも、基準撤廃は「深刻な間違い」になると言う。こうした措置は「鎮静剤にしかならない」とし、ある時点で競争原理を働かせるべきだとの考えを示した。

(Marta Orosz記者、Alexander Hübner記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中