ビットコイン法定通貨から1年 半値以下に暴落で夢破れたエルサルバドル
ところが、ビットコイン価格の下落はエルサルバドルの財政リスクを高め、2023年と25年に期限を迎える16億ドルの国債は、償還資金の手当てが難航している。
国際通貨基金(IMF)はエルサルバドルに対し、金融、経済、法的な懸念を理由にビットコインの法定通貨化の見直しを求め、IMFとの融資交渉は複雑になっている。
普及が進まない事情
専門家によると、ビットコインの普及も進んでいない。
大統領府も財務省も、政府のビットコイン専用スマートフォンアプリ「チボ」の利用状況についての統計を公表していない。
だが、米国に拠点を置くNGO、全米経済研究所(NBER)の調査によると、チボをダウンロードした国民のうち、政府が利用促進のために無料配布した30ドル相当のビットコインを使った後も継続してアプリを利用したのは、わずか20%だった。
アプリのダウンロードの大部分は昨年に、具体的には同年9月に集中しており、今年は今までのところほとんどダウンロードが行われていないという。
理屈の上では、エルサルバドルのような発展途上国は現金に依存する状態が続き、銀行口座を持たない国民が多いため、仮想通貨貨導入の理想的な候補地だ。
しかし、4月のNBERのリポートによると、ユーザーは「ビットコインを理解しておらず、信頼せず、企業にも受け入れられていない上、ビットコインは非常に不安定で、高い手数料を伴う」ため、「取引の媒体として広く使用されていない」と指摘された。
エルサルバドルの法律は全ての企業に仮想通貨の受け入れを義務付けているが、1800世帯を対象にした調査によると、受け入れているのは20%に過ぎない。
首都・サンサルバドル中心部にあるイェスス・カセレスさん(47)の小さな時計店は、ビットコインの支払いを受け入れており、そのことを示す表示も出している。
だが、これまでにビットコインで支払いが行われたのはわずか2回。「1回は3ドル、もう1回が5ドルで、合計8ドル。それ以来は皆無だ」と話す。
政府はまた、海外で働くエルサルバドル国民に対し、チボや民間の仮想通貨ウォレットを使い、手数料なしに本国に送金することを奨励してきた。本国送金はエルサルバドルの国内総生産(GDP)の26%を占め、この比率は世界最高水準だ。
しかし、中央銀行の統計によると、昨年9月から今年6月の間の本国送金は約64億ドルで、このうちデジタル仮想通貨ウォレット経由は2%未満だった。
政府はビットコインの使用状況と同様に、ビットコインシティー構想について、詳細をほとんど公表していない。だが、ブケレ氏が建設費を賄うために計画した「ビットコイン債」はビットコインの暴落を受けて発行が延期され、構想は見通しがますます不透明になっているようだ。
コンチャグア火山と太平洋岸のフォンセカ湾に挟まれた建設予定地の住民は、国民の大多数にとって恩恵はないと感じている。
コンチャグアに暮らして30年の漁師で農民のホセ・フローレスさん(48)は「貧しい私たちには何のメリットもない」と嘆息した。
(Nelson Renteria記者)