米国債をこっそり売却している中国──「売りすぎ」ができない事情とは?
中国には自国通貨・人民元を米ドルのようなクローバル通貨にするという野望がある HUDIEMM/ISTOCK
<日本と並び、中国は米国債の大量保有国。ドル売却の背景には、ユーロ買い増しによる人民元の「グローバル通貨化」だけでなく、ロシアをSWIFTから排除した経済制裁も。しかし、売却しすぎは自爆行為に>
中国共産党機関紙人民日報系のタブロイド紙・環球時報(英語版)によると、中国は米国債の保有額を2010年以来の低水準まで徐々に減らしている。この傾向は当面継続する可能性があるという。
いくつかの理由から、この変化はアメリカの債券市場にとって問題になりかねない。
まず、中国は日本と並ぶ米国債の大量保有国であり、売却すればアメリカの長期金利に上昇圧力がかかる可能性がある。第2に、QT(量的引き締め=保有資産の縮小)に踏み切ったFRBが米国債の保有額を減らしており、既に長期金利は上昇している。
なぜ中国は米国債を売るのか。価格下落による損失の削減と、国外資産の分散化のためだと、環球時報は主張する。
この分散化の狙いは理解できると、オンライン金融情報誌ゴールドIRAガイドの金融ライター兼アナリスト、リアム・ハントは言う。
「現在ユーロが米ドルに対し、20年ぶりのパリティ(等価)割れ付近で取引されていることを考えれば、中国が米国債を売却して、安いユーロやユーロ建て債を買い増すことを計画している可能性はある」
米ナイアガラ大学のテンパオ・リー名誉教授(経済学)は、中国の国外資産の分散化にはより大きな目標があるとみる。「中国は自国通貨の人民元をグローバル化し、金融政策の独立性を高めたいと考えている」
「そのため18年から、ユーロ、円、ポンドなどの他通貨への国外資産の分散化を始めている」と、リーは言う。「さらに今年、米国債を特別な理由なく売却することで、この政策を加速させた」
ただし、リーによれば別の理由もある。ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環として、国際送金・決済システムSWIFTからロシアを排除したアメリカの決定だ。
「SWIFTシステムからのロシアの排除は、グローバル通貨としての米ドルの地位を傷つけ、他の国々は外貨準備の代替案を検討せざるを得ない」と、リーは言う。