最新記事

日本経済

「アベノミクス」は終わらない 参院選後も継続見込む市場

2022年7月11日(月)11時51分

国と地方の長期債務残高は12年度末に932兆円(GDP比187%)だったが、22年度末には1244兆円(同220%)に拡大する見込みだ。金利が上昇すれば、利払い費も大幅に増加するという事情もある。

一方、日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策による大量の国債購入で、金利の自由度は低下し、財政規律に対する「警告機能」は事実上失われてしまった。日銀の国債保有額は6月に全体の5割を超えたと推計されている。低金利環境が放漫な財政を助長するという面があるのは否めず、今後の課題でもある。

道半ばの成長戦略

アベノミクスで道半ばだったのは成長戦略だ。世界経済成長の追い風もあり、この10年間に雇用の改善は続いた。2012年12月に4.3%だった完全失業率は今年7月で2.6%に低下。有効求人倍率も0.83倍から1.24倍まで上昇している。

しかし、経済協力開発機構(OECD)によると、日本の平均賃金はドルベースでみて2012年の3万8058ドルから2020年の3万8515ドルまで1.2%しか上昇していない。その間、OECD平均は7.5%、米国は12.5%上昇している。

世界の主要国に比べて低い2%程度のインフレに苦しんでいるのは、賃金が上がらないことが大きな要因だ。アベノミクスでは、環太平洋連携協定(TPP)の締結などの成果もあったが、日本企業の国際競争力の低下は止まらず、時価総額でも世界の上位から消えてしまった。TOPIXをS&P500で割ったTS倍率は低いままだ。

7月10日に投開票された参院選は与党・自民党の圧勝となった。次の参院選は3年後の2025年夏。衆院議員の任期満了は25年10月で、岸田文雄首相にとって、国政選挙のない「黄金の3年」が到来する。

「フリーハンド」を得た岸田首相が財政健全化や金融正常化に動くのかが注目されているが、コロナやエネルギー対策が喫緊の課題である日本では、アベノミクス政策の微修正はできても、完全に転換することは難しい。「次の段階に進むことができるのは成長戦略に成功したときだ」と、ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏は指摘する。

(伊賀大記 編集:石田仁志)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中