なぜ世界のビジネスエリートは今、「権力」を学ぶのか?──ただし、使い方には要注意
UNDERSTANDING POWER
著者のバッティラーナ(右)とカシアロは20年以上にわたってパワーの力学を研究し、多くのリーダーや組織に助言を与えてきた LIESL CLARK
<ハーバード大学、スタンフォード大学など名門大学MBAで、今一番注目されているのが、「権力の授業」。誤解されがちな「権力(パワー)」こそが、自分と社会を変える源に>
権力(パワー)の仕組みとそれを効果的に活用するコツを明快に解き明かした新著『ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業』で注目を集めるジュリー・バッティラーナとティチアナ・カシアロ。邦訳の翻訳者、井口景子が2人にメールで話を聞いた。
――世界のビジネスエリートはなぜ今、パワーについて学ぶべきなのか。
この3年間でパンデミックによる健康危機だけでなく格差拡大に起因する経済的、社会的危機、さらに環境危機も進んでいる。現状維持は不可能で、ビジネスの世界を含め変革が必要だ。ビジネスエリートの人々もその必要性に目覚めつつある。
企業は長年、危機の悪化に加担してきたが、財務目標に加えて社会的、環境的な目標も追求するよう求める圧力が強まっている。幸い、従業員から経営陣まで多くの人々が問題解決に携わりたいと願っている。
――パワーに関するあなた方の講義が人気を集めるのはなぜだと思う?
人々はパワーに魅了される一方で強烈な不快感も抱いており、パワーは汚れたものだから関わらないほうが道徳的に美しくいられると思っている。私たちの教える内容が有益なのは、パワーの真の仕組みを理解し、そうした誤解を打ち砕けるから。そうすることで受講生は勇気づけられ、パワーは物事を成し遂げるために必要なエネルギーだと気付く。
――著書への反響は?
自分自身と組織、社会への見方が劇的に変わったという声が多く寄せられている。この本の狙いは、暗闇を見通せる「暗視スコープ」を提供することで読者を誤解から解き放ち、パワーの基本原理を理解する助けとなることだ。
――本著に登場する米宇宙飛行士エレン・オチョアのように、一部の人はパワーの効果的な使い方を直感的に知っているように思える。そうでない多くの人との違いは何か。
そうみえる人にも変革の起こし方について苦悩した経験はある。生まれながらの変革者はおらず、彼らもまた学びながら、必要なパワーの土台を積み上げてきた。
本著で紹介した人の多くが当初はパワーを持てない立場だったことから、パワーと職権が同一でないことも分かる。職権はパワーの源泉になり得るが、それがあるからといってパワーを持てる保証はない。
――周囲の「弱者」がパワーを得る手助けをするためにできることは?
現代社会には人種差別や性差別、民族、宗教、性的指向、階級に基づく差別など体系的な不公正が蔓延している。パワーへの万人のアクセスを民主化するには、そうした不公正に対抗する必要がある。
弱者自身が不当な階層構造を壊すのは無理でも、歴史が示すように彼らが集団行動に加わって変化を起こすことは可能だ。多くの人が連携して変革を成功させるには3つの役割が必要だ。
現状に異を唱えて世論を喚起する「扇動者(アジテーター)」、具体的な解決策を考案する「革新者(イノベーター)」、そして、さまざまなステークホルダーを協調させて解決策を実現に導く「調整役(オーケストレーター)」。
パワーを理解した上で3つの役割の人々が協働できれば、パワーの不当な階層構造を崩し、弱い立場の人々をエンパワーできる。
『ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業』
ジュリー・バッティラーナ&ティチアナ・カシアロ (著)
井口 景子 (訳)
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