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日本国民の所得が増えないのは「企業が渋る」から 参院選に向け譲歩した岸田首相が本当にすべきこと

2022年6月20日(月)11時19分
リチャード・カッツ(東洋経済 特約記者 在ニューヨーク) *東洋経済オンラインからの転載

3%の賃上げを「期待」するのみ

岸田首相もほかの議員も、賃上げを行った企業に対する非効率な税額控除を引き上げる以上の具体的な改善策を提案することはなかった。岸田氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック以前の水準まで売上を回復させた企業は3%の賃上げを行うことを「期待する」と述べただけである。「期待」は「行動」ではない。

もし法人税減税が日本の成長と財政赤字を悪化させているなら、なぜ減税を撤回しないのだろうか。その結果得られる収入で消費税を下げたらどうだろうか。そうすれば、企業と家計の間でより公正な所得分配が行われるのではないか。閣議では、誰もこの選択肢について言及しなかった。

企業が賃金を上げるような措置をとったらどうだろうか。例えば、日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。

一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している。今回も、日本の労働監督官を同じように活用しようという議論は起こらなかった。

最低賃金引き上げがもたらす大きな効果

最低賃金の引き上げは、驚くほど強力な波及効果をもたらす。最低賃金以下の人たちだけでなく、最低賃金を15〜20%上回る人たちの所得も上昇させるからだだ。

パートタイム労働者の平均賃金はわずか1100円であり、彼らは全従業員のほぼ3分の1を占めているため、生活水準や消費需要への影響は劇的なものとなるであろう。残念ながら、岸田氏は十数年前に打ち出された最低賃金目標、時給1000円を繰り返しただけで、この目標をいつ達成するかは明言していない。現在、最低賃金は930円だ。

最低賃金は1145円程度にする必要がある

岸田首相はまた、1000円を超える引き上げの可能性についても言及しなかった。2020年の最低賃金は全国平均賃金のわずか45%であり、OECD21カ国中、日本は18位となる。典型的な富裕国では52%である(貧困レベルを超えるには、全国平均賃金の半分の所得が必要である)。日本は富裕国の水準を目標にすべきだ。そのためには現状を踏まえて、最低賃金を1145円程度にする必要がある。

起業の数を10倍にするという目標については、先鋭のエキスパートによる専門チームが6カ月の期間中、さまざまな想像力を駆使してアイデアを出した。ところが、岸田内閣では、成長と分配の悪循環を解消するための同様の委員会は設置されなかった。

したがって、6月に承認された案は、11月に議論された案とほとんど変わりはない。こうしたやり方は、岸田首相の屈服が長引かないかどうかという心配を増幅させる。

日本と改革派と同様、私は岸田首相による次の5カ年計画では、この骨組みにもっと肉付けしてくれるのではないかと期待している。しかし期待だけで、確信は今のところない。

リチャード・カッツ

東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)
カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
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