サラリーマンの味方、立ち食いそばが映す世界経済 庶民の味にインフレ圧力
日本の食文化を代表するそば、とりわけ安さが売りの立ち食いそばは原材料の多くを輸入に依存し、その一杯はインフレに直面する世界経済の今を凝縮している。長野県青木村のそば畑で2014年9月撮影(2022年 時事通信)
日本の食文化を代表するそば、とりわけ安さが売りの立ち食いそばは原材料の多くを輸入に依存し、その一杯はインフレに直面する世界経済の今を凝縮している。すでに値上げに踏み切ったチェーン店もある中、「ロシア」、「円安」という要因が加わり、一段のコスト上昇圧力を受けている。関係者の間では「いつでも気軽に食べられるものではなくなってしまうかもしれない」(製粉大手)との危機感が広がる。
ロシアからの輸入がトップ
「さすがに今回は、ちょっと(値段を)上げなくちゃ無理かなという状況に陥っています」。東京都港区にある高本製麺所の店主・石原隆さんは顔を曇らせる。石原さんは以前から働いてきた同店を17年前に引き取り、経営を続けてきた。ここまでのコスト高に直面したことはなかった。
そばの主原料であるソバの実は、国内消費量の6割程度が国産より安い輸入品。立ち食いそば店は、様々な特色がある各国の粉を独自に配合して味を競っている。
輸入品の価格はここ5年で6割超上昇した。日本蕎麦協会によると、19年まで最大の輸入相手国だった中国で、より収益性の高いとうもろこしなどへ転作する動きが活発化したことが背景にある。
ロシアによるウクライナ侵攻が、その流れに拍車をかける。中国が減産した結果、19年時点で3位だったロシアの存在感が増し、今年に入って輸入相手国の首位となった。ロシアは実を茹でて食べる習慣があり、生産量では世界一のそば大国だ。
製粉大手の日穀製粉(長野市)の担当者は「経済制裁による決済の停止や物流の混乱で入荷に遅延が発生している」と話す。円安環境下、この状態が長引けば品薄による一段の価格上昇は避けられない情勢だ。
「名代富士そば」を展開するダイタンホールディングス(東京都渋谷区)は今年に入り、かけそばを310円から340円へ引き上げた。昨年5月にかけそばを340円から360円へ値上げした「ゆで太郎」のゆで太郎システムズ(東京都品川区)も、最近の材料高騰を背景に追加値上げを検討中だという。