ウクライナ情勢が新薬開発の臨床試験に影響 ファイザーなど対応追われる
ロシアのウクライナ侵攻により、製薬業界はこの地域で臨床試験に参加している患者向けに医薬品を提供するための手段の確保を急いでいる。写真はプラハの製薬工場で2021年5月撮影(2022年 ロイター/David W Cerny)
ロシアのウクライナ侵攻により、製薬業界はこの地域で臨床試験に参加している患者向けに医薬品を提供するための手段の確保を急いでいる。
ウクライナはロシアとともに、がんや神経障害、消化器疾患の患者からの治療薬ニーズが切迫しており、新薬研究を手掛ける上で重要な国の一角を占める。ロシアと周辺諸国の患者は、世界中の全臨床試験参加者の10%に上る、というのが複数の専門家の試算だ。
一方、ロシアがウクライナに侵攻して2週間が経過し、現地への食料、水、医薬品供給が制限され、主要な病院が砲爆撃で被害を受ける形の人道上の危機が発生。200万人強がウクライナから避難する事態になった。
世界保健機関(WHO)の緊急対応責任者マイク・ライアン氏は「この戦争と危機に医療システムが巻き込まれつつある。一部の病院は、全く機能し得なくなったという理由で当局から見捨てられている」と懸念を示した。
こうした中で、ウクライナにおいて最も多くの臨床試験に携わっている米製薬大手メルクとスイス製薬大手ロシュは、患者に薬を届け続けるにはどうすべきか検討していると表明した。同国では2社は同国で合計約100件の試験を進めているという。
米製薬大手ファイザーなどこれまでに7社が、ウクライナでの臨床試験遂行や患者の登録に支障を来していると報告。ウクライナ全体でどの程度試験が遅れているかは不明だが、調査機関グローバルデータによると、同国内で今行われている試験は502件だ。
ロシュだけでウクライナの臨床試験は33件もあり、被験者数は同社が世界中で実施している試験の1.5%。ロシュの広報担当者は、現在ポーランド、スロバキア、ルーマニアといった近隣諸国でウクライナの患者に試験を受けてもらえる場所がないか調べているところだと述べた。「これらの患者にとって足元の状況は非常に厳しく、彼らがウクライナを離れて他国に行った場合も含め、われわれは治療を確実に受け続けられる解決策を見つけようと積極的に取り組んでいる」という。
臨床試験を手掛けるラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカはロイターの取材に対し、首都キエフで行っていた患者訪問が2月21日の週以降は中止されていることを明らかにした。