最新記事

医療

ウクライナ情勢が新薬開発の臨床試験に影響 ファイザーなど対応追われる

2022年3月15日(火)10時15分
薬の製造工場

ロシアのウクライナ侵攻により、製薬業界はこの地域で臨床試験に参加している患者向けに医薬品を提供するための手段の確保を急いでいる。写真はプラハの製薬工場で2021年5月撮影(2022年 ロイター/David W Cerny)

ロシアウクライナ侵攻により、製薬業界はこの地域で臨床試験に参加している患者向けに医薬品を提供するための手段の確保を急いでいる。

ウクライナはロシアとともに、がんや神経障害、消化器疾患の患者からの治療薬ニーズが切迫しており、新薬研究を手掛ける上で重要な国の一角を占める。ロシアと周辺諸国の患者は、世界中の全臨床試験参加者の10%に上る、というのが複数の専門家の試算だ。

一方、ロシアがウクライナに侵攻して2週間が経過し、現地への食料、水、医薬品供給が制限され、主要な病院が砲爆撃で被害を受ける形の人道上の危機が発生。200万人強がウクライナから避難する事態になった。

世界保健機関(WHO)の緊急対応責任者マイク・ライアン氏は「この戦争と危機に医療システムが巻き込まれつつある。一部の病院は、全く機能し得なくなったという理由で当局から見捨てられている」と懸念を示した。

こうした中で、ウクライナにおいて最も多くの臨床試験に携わっている米製薬大手メルクとスイス製薬大手ロシュは、患者に薬を届け続けるにはどうすべきか検討していると表明した。同国では2社は同国で合計約100件の試験を進めているという。

米製薬大手ファイザーなどこれまでに7社が、ウクライナでの臨床試験遂行や患者の登録に支障を来していると報告。ウクライナ全体でどの程度試験が遅れているかは不明だが、調査機関グローバルデータによると、同国内で今行われている試験は502件だ。

ロシュだけでウクライナの臨床試験は33件もあり、被験者数は同社が世界中で実施している試験の1.5%。ロシュの広報担当者は、現在ポーランド、スロバキア、ルーマニアといった近隣諸国でウクライナの患者に試験を受けてもらえる場所がないか調べているところだと述べた。「これらの患者にとって足元の状況は非常に厳しく、彼らがウクライナを離れて他国に行った場合も含め、われわれは治療を確実に受け続けられる解決策を見つけようと積極的に取り組んでいる」という。

臨床試験を手掛けるラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカはロイターの取材に対し、首都キエフで行っていた患者訪問が2月21日の週以降は中止されていることを明らかにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中