ウクライナ情勢が新薬開発の臨床試験に影響 ファイザーなど対応追われる
ベロシティー・クリニカル・リサーチのポール・エバンス最高経営責任者(CEO)は、ロシアがクリミアを編入した2014年にも業界はこの地域で似たような試練に直面したと説明。「当時は全面的な戦争状態ではなかった」と語り、現在ウクライナで臨床研究をするのは不可能に近いと付け加えた。また「恐らくロシアでは既存の試験を終えるのは可能だが、新たな試験に着手する意欲はそがれるだろう」と話した。
相次ぐ登録停止
製薬会社はしばしば、大規模な臨床試験を多くの国にまたがって行う。その際、積極的に参加する意思のある患者が多く、米国や西欧に比べて事業コストが低いウクライナとロシアは業界にとって引く手あまたの地域となってきた。
ただジェフリーズのアナリスト、クリス・ハワートン氏は、ウクライナでの戦争が長引けば、なお登録手続きをしている幾つかの試験は別の地域に移転する公算が大きいとの見方を示した。
ウクライナで事業展開している製薬会社のうち、現在進行中の臨床試験が60件近くと最も多いメルクの場合、ウクライナとロシアにおいて患者の新規登録を一時停止した。メルクは7日、商業的な顧客と同じように試験登録した患者も製品を入手できるよう手を尽くしていると強調した。
欧米のロシアに対する経済制裁は、医薬品を対象に含めていない。グローバルデータによると、ロシアで現在行われている臨床試験は842件で、世界6番目の多さだ。
もっとも複数の専門家は、研究者が入国するための航空便がないなど、ロシアで臨床試験を継続するのは難しい要因を幾つか挙げている。
米日用品・製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、ウクライナとロシア、ベラルーシで臨床試験の新規登録とスクリーニングを一時停止したと発表。ウクライナで27件の試験を実施しているファイザーも、新規患者の募集を中止した。
米製薬会社カルナ・セラピューティクスはウクライナで統合失調症治療薬の試験の登録を停止し、スティーブン・ポールCEOはロイターに、必要なら米国で被験者を追加募集する可能性があると明かした。
ベロシティーのエバンス氏は「ウクライナでは社会構造が完全に崩壊している。そうした戦争地域で臨床試験を行えるはずなどない」と述べた。
(Manas Mishra記者)
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