最新記事

日本経済

「日本経済」が韓国に追い抜かれた納得の理由 同じ構造的問題を抱えた両国で何が差を生んだのか

2022年3月11日(金)18時30分
リチャード・カッツ(在ニューヨーク 東洋経済 特約記者)*東洋経済オンラインからの転載

いずれにしても、日本と韓国における1人当たりのGDPは、アメリカやヨーロッパを大きく下回っており、韓国は追いつきつつある一方で、日本はこれに後れをとっている、というのが今の構図だ。しかも韓国は構図的欠陥の少なくとも一部を改善するため、より多くの取り組みを行っている。逆に言えば、日本は韓国から学ぶところがある、というわけだ。

経済がきちんと成長するためには、高い潜在的成長を実現するための生産性向上を実現しなければいけない。同時に、経済がフル稼働するには、需要側の安定性が必要である。

この点で、韓国は日本よりうまく需要側をコントロールしてきた。前述の通り、韓国では労働者の賃金がGDPと並行して上昇している。その結果、韓国の世帯は自国が生産したものを買う余裕がある。正常な経済では、民間需要の不足を補うために、慢性的な政府による支出と、必要以上に大きな貿易黒字は必要ないのだ。

賃金格差については、韓国のほうが日本より状況が悪いが、韓国はこの改善にも取り組んでいる。例えば、最低賃金は中央値は62%に引き上げられており、これはOECDで3番目に高い比率になっている。日本はいまだ45%にとどまっている。

世界的な危機への耐性が高い韓国

韓国の対GDPにおける輸出額は日本の2倍だが、内需が強いことから、韓国は世界的な危機に対して日本より耐性がある。2008〜2009年の金融危機時、日本のGPDが7%減少した一方、韓国のGDPは4%増加した。また、過去2年のコロナ禍において日本のGDPは3%低下したのに対して、韓国のGDPは3%上昇した。一般的にマクロ経済危機の影響を受けにくい国は、長期的に平均成長率が高くなる。

生産性の面では、経済成長に必要な第一要素は最新設備への投資である。1980年当時、韓国の各労働者は日本の労働者の23%の資本しか持っていなかったが、2020年までに韓国の労働者は日本の労働者より12%多く持つようになった。

2つ目の大きな要素は、教育と訓練である。「人的資本」は、1人ひとりがどれだけ学校教育を受け、さらなる追加の学歴が各国の成長に貢献するものだが、1960年、韓国は日本と比べて70%の人的資本しか享受していなかった。これが2019年までに5%増加し、韓国の人的資本は先進国31カ国中5位となり、日本は13位になった。

多くの日本人が大学を卒業しているにもかかわらず、日本はなぜ後れをとっているのだろうか。2020年には、24〜34歳の年齢層では韓国人の70%が大卒で、日本は62%と先進国トップレベルにある。ここからわかるのは、日本企業がこうした高い学歴を持つ人を最大限に活用する訓練やテクノロジーを導入できていない、ということだ。

例えば、大卒者であったとしても非正規労働者は正規労働者が普通に受けているような、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)をほとんど受けていない。また、日本企業のオフ・ザ・ジョブ・トレーニング(職場外研修)への支出は1991年以来40%減少している。OJTの費用は総人件費とは別に計算されていないが、非正規の割合が増加しているため、ほぼ確実に減少しているだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中