最新記事

日本経済

「日本経済」が韓国に追い抜かれた納得の理由 同じ構造的問題を抱えた両国で何が差を生んだのか

2022年3月11日(金)18時30分
リチャード・カッツ(在ニューヨーク 東洋経済 特約記者)*東洋経済オンラインからの転載

政府が教育にかける費用も低い日本

問題は訓練費用だけではない。大学以前の教育に投資する費用(GDP比)で見ても、韓国がOECD26カ国中15位なのに対して、日本は下からなんと2番目。大学教育に関して言えば、日本は公的資金に最もお金をかけていない。 経済的負担は家族に課せられる。その結果、裕福でない家庭の優秀な日本人学生は大学に進学できず、個人にとっても国にとっても損失となっている。

ある国の経済が発展していくうえで最も重要な要素はインフラ、近代産業、および教育にどれだけ投資するかである。しかし、国がある程度経済的に成熟すると、より重要なのは国がどれだけ投資するかではなく、どれだけ賢明に投資するか、つまり、企業が投資した1円や1ウォンからどれだけの利益を得られるか、である。

この点で見ると、サムスン電子はより優れた製品や、賢い労働者を持つからではなく、優れた戦略を実行したことからソニーに取って代わったと言える。

国が物的資本と人的資本の両方からどれだけの利益を得るかを測る尺度は、全要素生産性(TFP)と呼ばれる。 資本と労働の投入量が2%増加し、GDPの生産量が3%増加する場合、その1%の差はTFPである。長期的には、TFPの堅調な成長は、1人当たりGDPの成長を最も確実に保証するものだ。 2014年から2019年にかけて、韓国はOECD 23カ国の中で1位となり、TFPは年間1.5%の成長を遂げた。対照的に、日本は0.6%でわずか10位だった。

TFP成長の一部は、アーク式電気炉を備えた製鉄所など、より最新の技術に投資することによってもたらされる。しかし、先進国はどこも同じような技術を利用している。こうした中、TFPの差を生む要因の1つは、その技術をどれだけうまく利用しているか、である。

試しにデジタル技術を見てみよう。日本と韓国はともに、大企業と中小企業間の大きなデジタルデバイドに悩まされているが、情報通信技術(ICT)に投資している韓国企業は、これをより効率的に活用する取り組みをしている。

例えば企業は、ICTを事務作業や工場作業の自動化など、すでに実行している作業のコストを削減するために使うのか、それとも新製品や改良製品を生産するために使うのか、的確に顧客を狙うために使うのがいいのかという選択に迫られる。日本経営開発研究所は、デジタル分野におけるこのような「ビジネスアジリティ」で国をランク付けしているが、2021年に64カ国中、韓国は5位だったのに対し、日本は53位と完全に後れを取っている。

企業は、従業員がICTをうまく使うスキルを持っていない限り、ICTを最大限に活用できない。 世界経済フォーラムが労働力のデジタルスキルで141カ国をランク付けしたとき、韓国は25位だったが、日本は驚くほど低い58位だった。

ベンチャーや起業家育成でも差

韓国は新興企業や起業家育成にも力を入れている。特に研究開発分野への投資は国が生み出す高成長中小企業の数に大きな違いをもたらす。日本では従業員250人未満の企業に対する政府の財政援助は、研究開発分野での政府援助の12%と、OECDで最も少ない。対して韓国では研究開発への政府支援の半分は中小企業に充てられる。これが、韓国のビジネス研究開発全体の22%が中小企業によって行われている理由の1つである(日本ではたった4%である)。

こうしたさまざまな取り組みの結果、2017年時点で韓国には8000を超える高成長企業(従業員が10人以上で、3年間連続で年間20%以上成長した企業)があった。先進国12カ国の中で、韓国は労働者100万人当たりの高成長企業数で5位にランクインしている。残念ながら、日本は起業家の成功に関する重要指標を測定したことがない。これは国が何を重要視しているのかを如実に語るものだ。

さまざまな数字は日本にとって悪いニュースかもしれないが、これはいいニュースでもある。韓国の経験を踏まえて、正しい構造改革を行えば、日本にも明るい未来が待っている可能性を示しているのだから。

リチャード・カッツ(Richard Katz)

東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)
カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半で底堅い、円売り継続 

ワールド

インド、証券取引委員会幹部の資産公開を提言

ワールド

ベトナム、年明けから最低賃金を7%以上引き上げ

ビジネス

マクロスコープ:円安巡り高市政権内で温度差も、積極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中