最新記事

経済制裁

「ロシア排除」に賛同しない暗号資産取引所 西側各国による制裁の抜け道化に懸念

2022年3月3日(木)18時58分
暗号通貨と米ドル紙幣のイメージ

世界最大手の暗号資産取引所の中には、まだロシアでの事業を継続しているところがある。写真は暗号通貨と米ドル紙幣のイメージ。2021年10月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

世界最大手の暗号資産取引所の中には、ロシアでの事業を継続しているところがある。金融業界のメインストリームとは一線を画す対応で、専門家は、ウクライナに侵攻したロシア政府の孤立化を目指す西側の動きを弱める判断だとしている。

西側諸国による制裁は、ロシア経済を圧迫してグローバル金融システムから切り離す狙いがあり、西側諸国の企業や金融機関はロシアでの事業を停止せざるをえなくなっている。

だが、バイナンスや米国を拠点とするクラーケン、コインベースをはじめ、世界最大手の暗号資産取引所の多くは、ウクライナ政府の要請にもかかわらず、ロシア系ユーザーの包括的な締め出しには踏み切っていない。各取引所は、ユーザーを精査し、制裁対象となるユーザーはすべてブロックするとしている。


暗号通貨取引所のこうした冷淡さは、伝統的な金融セクターと暗号資産の世界の間に横たわる思想的な隔たりを如実に示している。暗号資産の根底には、リバタリアン(自由至上主義者)的理想、そして国家政府に対する不信感があるからだ。

暗号資産取引所は、1つの国全体を排除することは、政府に監視されない決済手段へのアクセスを提供するというビットコインの精神に反すると主張している。

だが、一部のマネーロンダリング(資金洗浄)対策(AML)専門家は、暗号資産取引所によって、ロシア人や業が資金を海外に移転させるルートが開いたままとなり、ロシアに圧力をかけて戦争を終わらせようとする西側諸国の努力を台無しにする恐れがあると警告する。

銀行監督機関での経験もある米国の弁護士ロス・デルストン氏は、「制裁効果の低下は明らかだ」と語り、「(暗号資産は)資産の逃げ道になっている」と説明する。

大半の取引所は身分証明書類の提示を求めているが、本人確認ルールの厳格さは取引所によって異なり、暗号資産が不正資金の移動手段になっていると考える規制当局者を当惑させている。

マネーロンダリング対策や暗号資産の専門家は、制裁対象となっている人物が、ビットコインと比べてユーザーの匿名性が高い、いわゆる「プライバシーコイン」と呼ばれる暗号資産を介して資金を移動させようと試みるのではないか、と語る。「プライバシーコイン」の支持者は、各国政府による過剰な監視に対するユーザー保護を高めるものだと主張する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中