物価安定の鍵握る中小企業の賃上げ 格差是正はいばらの道
今年の春闘では、中小企業の賃上げが例年にも増して注目されている。写真は経団連の十倉雅和会長。都内で2021年5月撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)
今年の春闘では、中小企業の賃上げが例年にも増して注目されている。岸田文雄政権が掲げる格差是正の象徴となるだけではなく、裾野の広い中小の賃上げが実現すれば、日銀が目指す物価安定にも一歩、近づくからだ。
経団連が取引価格の適正化を表明するなど環境整備も進みつつあるが、直接的な効果は未知数。ここにきての新型コロナウイルス感染再拡大や株価の急落で、経営者がより慎重になる懸念もある。
肌感覚
中小企業白書によると、中小企業数は日本企業の99%を占め、従業員数でも全体の7割に達する、いわば日本経済の主役。ただ、規模が小さく内需に片寄りがちな「街の中小企業」が多い分、海外市場底打ちの恩恵を受けて業績が回復してきた大企業に比べると業績は苦戦が目立ち、企業間の体力や活力の差は依然大きい。
東京の新橋駅近く。日本屈指の飲食店街で、20年超にわたり小さな店を切り盛りしてきたバーの経営者は、日頃からサラリーマンや中小企業の経営者らと接してきた。「従業員との関係が密接な中小企業に、賃上げをしたくない経営者はあまりいない。報いてやりたいができない、という苦悩を抱えている。私もそのひとりだが」と苦笑する。
厚生労働省によると、企業規模別の賃金の格差は依然として大きい。月額賃金をみるると、男性は大企業37万7100円、中企業33万1700円、小企業30万2400円。女性も大企業26万6400円、中企業25万3100円、小企業23万2900円と、ともに規模と賃金が比例する構図が続く。
賃金と密接な関係を持つ資金繰りには、格差拡大の予兆が再び表れている。昨年12月に日銀が公表した短観によると、大企業の資金繰りは回復基調が続く一方、中小企業は再び悪化へ転じた。余力に乏しい企業が多い中小はリーマンショック後、プラス圏へ転じるのに6年近くを要した経緯がある。
交渉過程
春闘の交渉過程では、大企業とは別の事情を抱える。これまで交渉のリード役だった大企業が要求を数値で示さなかったり、一律での要求を取りやめるといった動きが出てきたことで、遅れて本格化する中小企業の労働側が、交渉を勢いよく進めることが難しくなっている。
組合員数の減少もあり、連合はこうした動きに危機感を抱く。