最新記事

日本経済

物価安定の鍵握る中小企業の賃上げ 格差是正はいばらの道

2022年1月31日(月)16時20分

芳野友子会長は「コロナだから仕方がない、昨年と同じでいいという議論に終始していては、安心社会への道筋が開けない」と強調。「格差是正が進みにくい状況下、大手も中小も(賃上げを)要求し、労使交渉することが重要だ」と呼び掛ける。

組合員182万人を擁する日本最大の産業別労働組合、UAゼンセンは2%の引き上げを求める方針だが、79万人で国内第2位の自動車総連は13日、一律のベア要求を見送ることを決めた。

わずかな光明

暗がりの下で中小企業に光明となりそうな動きがある。サプライチェーン(供給網)から発生した利益を適正に配分しようとする取り組みだ。

複数の会社がひとつの製品を組み立てるサプライチェーン。完成した製品から得られる利益が下請けである中小企業に十分行き渡らず、繁忙でももうけが限られ、賃上げ原資の積み上げに至らないとされる問題が多発している。

政府が価格転嫁対策に乗り出したこともあり、経団連は今回、春闘の指針を示したリポートで、買いたたきの排除など取引価格の適正化に「大企業が率先して一層推進する」と書き込んだ。

中小企業が製造する部材の値上げなどを容認する姿勢を見せた形で「かなり踏み込んだ」(関係者)表現となった。

連合の芳野会長は、こうした取り組みが中小企業の賃上げ余力になる、と力説する。

好循環は

資源価格の上昇や円安などを背景に、日本でも物価の上昇が目立っている。昨年12月の国内企業物価指数は前年同月比プラス8.5%と、過去最高だった前月に次いで過去2番目の伸び率を記録した。

全国消費者物価指数(コアCPI)は同0.5%の上昇だったが、携帯電話通信料の大幅値下げの影響を除くと、既に2%近くに達している。

日銀が長年物価目標として掲げてきた水準が目前に迫る中、黒田東彦総裁は「賃金の上昇を伴わずに資源価格、国際商品価格の上昇を主因とする物価上昇が起こったとしても、一時的にとどまる」として、賃金と物価が持続的に上昇する好循環を期待する。

一方、賃上げ交渉を控えた時期のいま、新たに懸念されているのが足元の株安だ。中小企業の経営者は保有資産の価値を大きく左右する株価の動向により敏感とされる。

新型コロナの感染者数急増やオミクロン株(BA.1)の亜種、ステルスオミクロン株と呼ばれるBA.2が国内で検出されたことも、同様に影を落とす。

労働問題に詳しい日本総研の山田久副理事長は、物価高の下で「賃金を上げる企業が少ないと、実質賃金がマイナスになって消費が落ち込み、景気が下振れするおそれがある」と警鐘を鳴らしている。

(基太村真司 グラフィック作成:照井裕子 編集:橋本浩)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナ感染で男性器の「サイズが縮小」との報告が相次ぐ、「一生このまま」と医師
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援に感動の声
・コーギー犬をバールで殺害 中国当局がコロナ対策で...批判噴出


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中