コロナ禍での「顧客データ危機」を回避せよ DX時代、オンライン=オフラインで作るビジネスの基盤とは
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日本のDXをリードしてきたマーケター・実業家である長瀬次英氏は「デジタル化の真の狙いは、人との繋がりを強くし、血の通った人間関係をつくること」と語る
<デジタル庁が今年9月1日に発足されることが決まり、日本におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が注目されている。しかし、コロナ禍の影響で、企業の投資余力などの違いによってDX格差が生じているだけでなく、顧客データの管理のあり方自体が問われているという>
新型コロナウイルスの感染拡大とともに多くの企業で商談のオンライン化が加速している。法人向けクラウド名刺管理サービスで知られるSansanが行った「企業の商談・人脈・顧客データに関する意識・実態調査(2020年)」によると、オンライン商談が以前の約2.5倍になった一方で、名刺交換枚数は約3割減少。オンライン商談で名刺交換をしているビジネスパーソンは、2割しかいないないことも分かった。
その結果、4人に1人は顧客データを活用することができなくなったと回答し、オンラインでも顧客データを活用できている現場社員はわずか1割。一方で自社の社員がオンラインでも顧客データを活用できていると思っている経営層は約5割もいることが分かり、大きなギャップが生じていることが判明した。このままでは顧客データが蓄積されず、将来的な企業経営にも影響を与える「顧客データ危機」を招く恐れがある。
新型コロナウイルスの影響がなければ、名刺交換によって得られるはずのデータを経済的な価値に換算すると、年間約21.5億円(従業員100名以上の企業の場合)に上るという。すでに「顧客データ危機」に陥っている現状を認める必要があるだろう。
DXが進んでもオフラインという現場は重要
「顧客データ危機」に陥らないためにはどうすればいいのか。その答えは、オンラインでの顧客との接点をデータとして蓄積し、いかにビジネスチャンスへ繋げていくかということであろう。しかし、デジタル化を闇雲に推し進めると手段が目的となってしまい、DXの本質を見誤ってしまう。
2015年に日本ロレアルに日本初のCDO(デジタル最高責任者)として就任するなど、日本のDXをリードしてきたマーケター・実業家である長瀬次英氏は次のように語る。
「デジタル化が進んだ結果、ビジネスにおいて何が変わったのかというと、一人ひとりの顧客をより深く理解することができ、顧客との距離を縮めることができるようになった。デジタル化の真の狙いは、人との繋がりを強くし、血の通った人間関係をつくることにある。最後に重要になってくるのは、人と人とが直接交わるオフラインという現場」
日本ロレアルで長瀬氏はすべての顧客データを一元的に管理できるように可視化。さらに共有できるダッシュボードを用意するなどして、デジタル化によってさまざまなブランドや部署におけるセクショナリズムの壁を取り払った。その結果、ブランドや部署同士が協力し合い、会社全体の売上を底上げしていこうという新しい企業文化を創出することができた。「顧客データ構築」というとBtoCの企業のことという認識の経営陣もいるようだが、BtoBの企業にとっても重要な戦略だという好事例だろう。
じつは長瀬氏がCDOに就任して最初にやったことは、このようなDXの大切さや本来の目的を全社員に対して徹底的に教育したことだという。社内のあらゆる部署、工場、倉庫などに直接足を運び、社員とのコミュニケーションに注力。そして、顧客である百貨店の社内会議に登壇してDXに関する講義を行うなど、取引先に対してもデジタルリテラシーを向上させる啓蒙活動を行い、さまざまな働きかけを積極的に行った。
オフラインが重要という価値観はロレアルの経営層にも徹底されていた。
「グローバルのCEOであるジャン-ポール・アゴン氏が来日した際、彼は必ず顧客であるマツモトキヨシなどドラッグストアの店舗に足を運び、コミュニケーションを重視。世界中の売上の動きをオンラインで把握しながら、現場では自分の目で顧客のことを理解しようと努めていた。CEOでもオフラインを重視するのはグローバル企業では当たり前のこと」と長瀬氏は話す。
デジタル化が標準化していく中で、「顧客データ危機」に陥らないためには、DXの本質に基づいて顧客データを構築し、正しく活用することが求められている。冒頭で挙げた調査によると、顧客データの蓄積・管理・活用への意識が高い企業は、そうではない企業と比べてコロナ禍においても今後の業績の見通しがよいことが判明している。