最新記事

経済

人のため働く仕事ほど低賃金な理由 医療従事者やソーシャルワーカーたちが経済的に報われないのはなぜ?

2021年1月13日(水)16時31分
デヴィッド・グレーバー(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授) *東洋経済オンラインからの転載

シティの銀行家は稼ぐごとに社会的価値を破壊

そのように幅広いサンプルを扱った研究にわたしの知るかぎり最も近いのは、イギリスのニューエコノミクス財団のおこなった調査である。その調査では、「社会的投資収益率分析」と呼ばれる方法を用いて、3つの高収入の職業と3つの低収入の職業、合計6つの代表的な職業が検証されている。その結果を要約すれば、次のようになる。


•シティの銀行家
年収約500万ポンド、1ポンドを稼ぐごとに推定7ポンドの社会的価値を破壊。
•広告担当役員
年収約50万ポンド、給与1ポンドを受け取るごとに推定11.50ポンドの社会的価値を破壊。
•税理士
年収約12万5000ポンド、給与1ポンドを受け取るごとに推定11.20ポンドの社会的価値を破壊。
•病院の清掃員
年収約1万3000ポンド(時給6.26ポンド)、給与1ポンドを受け取るごとに推定10ポンドの社会的価値を産出。
•リサイクル業に従事する労働者
年収約1万2500ポンド(時給6.10ポンド)、給与1ポンドを受け取るごとに12ポンドの社会的価値を産出。
•保育士
年収約1万1500ポンド、給与1ポンドを受け取るごとに推定7ポンドの社会的価値を産出。

調査者たちは、こうした計算の常として、いくぶんかは主観的であること、この研究が収入規模上でトップとボトムにのみ集中しているということを認めている。その結果、報酬の面ではおおよそ中位で、ほとんどの場合、少なくともその社会的便益がポジティブでもネガティブでもなくゼロのあたりをうろついている大多数の仕事を除外してしまっている。

それでもなお、ここでは他者のためになる労働であればあるほど、受け取る報酬がより少なくなるという一般的原則が、強力に裏づけられている。

この原則にはいくつかの例外が存在する。医者の場合はそれを最もよく示している。医者の給与額は、とりわけアメリカでは、最上位を占める傾向にある。ところが、彼らは議論の余地なく有用な役割をはたしているように見える。しかしながら、医者ですらそのような例外には該当しない、と主張する医療従事者たちもいる。

例えば薬剤師は、ほとんどの医者が人類の健康や幸福にはごくわずかの貢献しかしておらず、いんちき薬(プラシーボ)の自動販売機と化しているという確信を持っていた。真偽のほどはなんともいえない。率直にいって、わたしにはわからないのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中