人のため働く仕事ほど低賃金な理由 医療従事者やソーシャルワーカーたちが経済的に報われないのはなぜ?
看護師のように他者のためになる労働ほど報酬が少ないという現実がある。xavierarnau - iStockphoto
コロナ禍での看護師不足が深刻化する一方、給料が仕事に見合わないという声が上がっています。看護師に限らず、社会的価値がある仕事をしている人たちの賃金が低いのはなぜなのでしょうか。職場にひそむ精神的暴力や封建制・労働信仰を分析し、どうでもいい仕事が蔓延するメカニズムを解明した『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』を一部抜粋・再編集してお届けします。
社会的に価値のある労働者は「医療研究者」
多種多様な職業の社会的価値を実際にすべて測定しようと試みた経済学者は、ほとんどいない。おそらく、大半の経済学者はそうした考えを愚か者の所業と考えているだろう。しかし、そのようなことを試みてきたその少数の経済学者たちは、有用性(ユースフルネス)と報酬のあいだには反転した関係があることを立証してきた。
2017年の論文で、アメリカの経済学者ベンジャミン・B・ロックウッド、チャールズ・G・ナタンソン、E・グレン・ワイルは、高給取りであるさまざまの職業にかかわる「外部性」(社会的コスト)と「スピルオーバー効果」(社会的便益)について既存の文献を探査している。
その目的は、それぞれの職業が経済全体に対し、どれだけの量〔の価値〕を追加しているか、あるいは差し引いているかを計測することは可能かを探ることにある。
彼らの結論は、そこにふくまれている諸価値があまりに主観的なので測定不可能である事例――とりわけクリエイティブ産業に関連している――もあれば、おおまかな計算が可能な事例もあるというものだった。
彼らの結論では、貢献度を計算できるもののうち最も社会的に価値のある労働者は医療研究者であり、その職業についている人びとは1ドルの給料につき社会に9ドル分の価値を追加している。
一方で最も価値の小さい労働者は金融部門で働いている人びとだが、彼らは平均して1ドルの報酬につき社会から1ドル以上の価値を差し引いている(そしていうまでもないが、金融部門の労働者はたいていきわめて高い報酬を得ている)。
分析結果の全容は、次のようなものである(▲はマイナス)。
•研究者 +9
•教師 +1
•エンジニア +0.2
•コンサルタントとIT専門家 0
•弁護士 ▲0.2
•広告マーケティング専門家 ▲0.3
•マネジャー ▲0.8
•金融部門 ▲1.5
確かにこの結果は、このような職業の価値全体に対して多数の人びとが抱く直感的な疑問を裏づけているように見えるし、それゆえ、それが事細かに分析されているのを見るのは愉快でもある。
しかし、著者たちは最高給取りの職業だけに焦点を絞っているために、ここでの目的のために活用するのには限界がある。おそらくリストの中で、教師は少なくとも平均値において最も賃金の低い労働者であり、研究者の多数はギリギリのところで生活している。
したがってこの結果は、賃金と有用性のあいだに負の関係性が存在することと矛盾しない。とはいえ、ピンからキリまでの領域の仕事を理解するためには、より幅広いサンプルが必要である。