最新記事

米中関係

中国企業、米上場計画を相次ぎ棚上げ 両国間の緊張激化で

2020年6月15日(月)11時41分

米中関係の緊張の高まりを受け、中国企業が米国での上場計画を相次いで棚上げしている。写真は5月26日、ニューヨーク証券取引所前で撮影(2020年 ロイター/Lucas Jackson)

米中関係の緊張の高まりを受け、中国企業が米国での上場計画を相次いで棚上げしている。中国勢の米上場に関与する弁護士や銀行関係者、会計士、規制当局者がロイターに明らかにした。

とりわけ上場準備の早い段階で中国企業の関心が薄れるケースが多くあり、背景には米上院で可決された、中国企業の米上場を難しくする内容の法案や、中国のコーヒーチェーン大手・ラッキンコーヒーの不正会計問題を受けた中国企業への監視強化がある。

香港の法律事務所Dechertのパートナー、スティーブン・チャン氏は「クライアントが米国での新規株式公開(IPO)を先延ばしするのを見てきた」と明かし、「原因は米中関係だ」と続けた。

「両国間の緊張が継続するならば、IPOの鈍化も続くだろう」とした。

ディアロジックのデータによると、中国勢は年初からニューヨークでのIPOで16億7000万ドルを調達し、さらに5億ドル程度の調達を目指している。2019年の中国企業による米国での調達額は35億ドルだった。

米中関係はここ数カ月で急速に悪化。貿易摩擦に加え、新型コロナウイルスの流行や中国政府による香港への国家安全法制定方針を巡る対立が鮮明化している。

中国の大手会計事務所の会計監査人は、同社では米上場に関する問い合わせが今年に入って半分に減ったと述べた。

中国当局に近い関係者によると、中国の証券当局に米上場計画を報告していた企業の多くはこれまでに方針を変え、より近場での上場を目指しているという。

中国証券監督管理委員会(証監会)はコメントの求めに応じていない。米証券取引委員会(SEC)はコメントを控えた。

投資家への不透明要因

米国の証券取引所に現在上場している中国企業は550社以上に上る。

一方、中国の当局はかねてから、中国企業の監査資料が国外に持ち出されるのを阻止してきた。このため、米当局は中国企業の監査の質を検証することが難しかった。

ただ、上院が可決した法案では、中国企業は政府の管理の度合いについて情報を開示する必要があり、監査法人を監督する米上場企業会計監査委員会(PCAOB)による監査状況の点検に3年連続で応じなければ、米上場が禁じられる。法案はトランプ大統領が署名すれば成立する。

米コンサルティング大手ベインのパートナー、ジョン・オットー氏は「米国の投資家にとっては、上場件数の減少を意味し、中国の経済成長の恩恵を得るのが難しくなる」と指摘した。

米上場の中国企業は、規制強化が株価に「悪影響」を及ぼすリスクの開示を開始している。

ラッキンの不正会計問題発覚後、最初にニューヨーク市場に上場した中国企業であるキングソフト・クラウド・ホールディングスは、米当局による監査資料入手を容易にする取り組みは「当社を含む発行企業について、投資家に不透明感を生じさせる可能性がある」と警告した。

米国に上場する中国企業の網易(ネットイース)と京東商城(JDドットコム)も香港での重複上場に向けて最近提出した資料で、同様のリスクを指摘した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染47人 40日ぶりで40人超え
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・ロンドンより東京の方が、新型コロナ拡大の条件は揃っているはずだった
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...


20200616issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月16日号(6月9日発売)は「米中新冷戦2020」特集。新型コロナと香港問題で我慢の限界を超え、デカップリングへ向かう米中の危うい未来。PLUS パックンがマジメに超解説「黒人暴行死抗議デモの裏事情」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、米関税への過度な警戒が緩和 自動車

ビジネス

午後3時のドルは143円前半で上値重い、米関税の警

ビジネス

村田製作所、米で5000万ドル規模のベンチャーキャ

ワールド

NZと米のパートナーシップはなお重要、外相がハワイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中