トランプはアップルに中国撤退を「強制」できるか?
中国政府が、米国からの輸入品に報復関税を課すと発表すると、その数時間後にトランプ米大統領は米国企業に対して「事業を米国に戻し、米国内で生産することを含めて、中国の代替先を模索し始める」よう命じた。写真は仏ビアリッツで開かれたG7会議に出席したトランプ氏。代表撮影(2019年 ロイター)
中国政府が23日、米国からの輸入品に報復関税を課すと発表すると、その数時間後にトランプ米大統領は米国企業に対して「事業を米国に戻し、米国内で生産することを含めて、中国の代替先を模索し始める」よう命じた。
この発言が持つリスクは大きい。なぜならロディアム・グループによると、米企業は1990─2017年に中国へ総額2560億ドルも投資してきたからだ。中国企業の対米投資額は1400億ドルだった。
一部の米企業は、貿易摩擦発生の1年余り前に中国から事業を移転させている。しかし事業や生産設備を中国から完全に引き揚げるには相当な時間がかかるだろう。さらに航空機やサービス、小売りなどの米企業の多くは、規模が非常に大きいだけでなく成長を続けている中国市場を手放すことを拒むのは間違いない。
米国が中国のような中央政府が統制する計画経済ではない以上、トランプ氏は企業にどうやって強制力を働かせるだろうか。
以下にトランプ氏が議会の承認を得ずに行使できるいくつかの手段を示した。
さらなる関税
トランプ氏は既に実行中の措置の強化、つまり関税を一層引き上げ、企業がもはや中国事業の採算を取れないようにして、実質的に撤退に追い込む可能性がある。
23日には既に25%の追加関税を適用している2500億ドル近くの原材料、機械、最終品などの中国製品について、10月1日から税率を30%にすると表明した。9月1日から12月15日にかけて発動予定の追加関税第4弾の税率も10%から15%に引き上げる。
関税強化は、中国製品の輸入価格を押し上げるほか、中国で合弁生産を手掛けている米製造業の痛手にもなる。
非常事態宣言
トランプ氏は、1977年に制定された国際緊急経済権限法(IEEPA)に基いてイランのように中国を国家非常事態宣言の対象とすれば、さまざまな制裁を科すことができる。
非常事態宣言後にはトランプ氏は、個別企業はいしは経済セクター全体さえ活動を阻止できる広範な権限を得る、と元政府高官や法律専門家は解説する。
バンダービルト・ロースクールの国際法務研究プログラムのディレクター、ティム・マイヤー氏によると、トランプ氏は例えば中国による米企業の知的財産窃取が国家非常事態の要件に該当するとみなし、米企業に対して中国のハイテク製品購入などの商取引をしないよう命じてもおかしくない。
実際にトランプ氏は今年、不法移民の流入を非常事態と解釈し、メキシコの全輸入品に制裁関税を課すと示唆した。
過去には1979年にカーター政権がイラン政府所有の資産を米国の金融システムで取引するのを禁じた例がある。
一方、元米国務省高官で制裁問題を担当したピーター・ハレル氏は、IEEPAの発動は米経済に意図せざる被害をもたらす恐れがあると警告する。米政府当局者としては、中国が対抗措置を講じてそれが米企業にどんな影響を及ぼすかを考慮しなければならないだろう。
ハーバード・ロースクールのマーク・ウー教授(国際貿易)は、IEEPAを発動した場合、米国内で訴訟を起こされる事態も想定されるとの見方を示した。