厚労省「年金財政検証」発表 低所得者や高齢者の負担増には限界も
負担増は担い手拡大に重点、財政安定には疑問
代わりに政府が力を入れるのが社会保障の「担い手拡大」。今年の「骨太方針」で高齢者や「就職氷河期世代」の就労に向けた支援策に重点が置かれたのも、年金などの保険料徴収の裾野を拡大することが狙いだ。
「財政検証」では、厚生年金保険料徴収の対象者をパートなど「月5.8万円以上の収入」の労働者まで拡大し、現状の4440万人程度から新たに1050万人増やす案や、基礎年金の納付年数の上限を現行の40年から45年に延長し、納付年数が伸びた分に合わせて基礎年金が増額する案などを示している。
こうした案を全て活用すれば、年金財政が安定した時点で、最大で10%超の支給率上昇が実現できる。新たな加入者にとっては、保険料負担と引き換えに年金支給額増加が期待できる。
中嶋氏は「担い手の拡大に軸足を置いた今回の政府の方針は、年金不安の緩和と引き換えに、何歳まで働き続けるか、低所得でも年金保険料を支払うか、といった選択を迫ることにもなりそうだ」とみる。
ただ、現在は高齢者が60歳を過ぎて就労する割合は半分程度であり、主婦層の就労も「130万円の壁」と言われる社会保障負担の線引きを取り払うことは大きな制度変更となるため、容易ではないと言われる。
日本総合研究所の西沢和彦・主席研究員「実は担い手拡大の余地は期待ほど大きくない」と指摘する。負担増・給付削減の抜本改革が政治的な都合で先送りされたままで担い手拡大を目指すだけでは、年金財政の安定を図り、「低負担・中福祉」というバランスの悪い社会保障制度から「中負担・中福祉」に移行する議論にはなり得ないとみている。
(グラフ作成:照井裕子 編集:石田仁志)
[東京 27日 ロイター]


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