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暗雲漂うドル円相場の行方──米利下げ、対中関税引き上げの影響は?

2019年8月7日(水)12時45分
上野 剛志(ニッセイ基礎研究所)

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そして、日銀の追加緩和にも期待できない。1ドル100円に迫る急激な円高が進行すれば、日銀も副作用増大覚悟で追加緩和に踏み切らざるを得なくなると思われるが、有効な手立ては見当たらない。有力視される追加緩和策のうち、ETFの買入れ増額は比較的ハードルが低いものの、「株安に伴うリスクオフの円買い圧力」を多少緩和させる程度の効果しか見込めない。

また、マイナス金利の拡大は日米金利差の縮小を緩和できるものの、米政策金利の低下余地と比べて拡大余地が乏しいため、FRBによる大幅な利下げには対抗できない。また、マイナス金利拡大によって、金融機関の収益圧迫を通じた金融システムへの副作用懸念が増大することで、リスクオフの円買いを誘発する恐れもある。

実際、2016年初にマイナス金利を拡大した際には円安効果は発揮されなかった。むしろ原油安や銀行株下落に伴うリスクオフ地合いと米金利の低迷によって円高が進行したことは記憶に新しい。日銀の追加緩和は副作用を増大させるだけに終わることになるだろう。

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。

nissei190806_Ueno.jpg[執筆者]
上野 剛志 (うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部 シニアエコノミスト

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