アマゾンが支配する自動化社会というディストピア
REPLACEABLE YOU
データは人間の経験や直感の代わりもできる。オンライン・ショッピングやソーシャルメディアのサイトは私たちの好みを「学習」し、その情報を使って評価を行い、私たちの決定や行動に影響を与える。かつては人間にしかできないと思われた仕事でも、どんどん機械のほうが上手になっている。
「コンピューターは見ることも聞くこともでき、人間以上に人の顔を識別できる」と、ライス大学のバルディは言う。「機械は人間の世界をほんの数年前よりずっとよく理解できるようになった。人間の脳で、機械が模倣できないものは何も見つかっていない」
一方で、コーネル大学のコンピューター科学者バート・セルマンは、現実の世界をコンピューターが理解できるように翻訳する「知識表現」の専門家で、まだコンピューターは人間と同等の能力に達していないと考える。コンピューターには「常識」がないし、言語の深い意味を把握できず、時に間違った方向に進んでしまう。ただし、そんな欠陥は時間が解決するはずで、「あと15年か20年で機械は人間の知性に追い付く」だろうとセルマンは言う。
それに、ロボットが完璧である必要はない。人間と同等か「ほんの少し有能」であればいい。その「ほんの少し有能」を目指して、研究者たちは日夜格闘している。
例えば、スーパーで私たちの多くはセルフレジの列を避ける。自分でやるより、店の人がレジに打ち込むのを待つほうが楽だからだ。だから今のところ、レジの仕事がなくなる恐れはなさそうだ。しかし小売業の経営に詳しいマサチューセッツ工科大学のゼイネップ・トンによれば、セルフレジはまだ発展途上。現状では「客に仕事を押し付けていると買い物客が反発しかねない」が、もっと進化すれば「小売業界の雇用に大きな衝撃を与えるのは確実」だと言う。
リアルな小売店はネット通販に駆逐されると、数年前から言われている。しかし、まだその事態は起きていないようだ。実際、1業者が撤退するごとに2つの業者が新たに参入している。
小売りは競争の激しい業界で、テクノロジーは消費者の買い物の方法だけでなく、ブランドとのつながりも変化させる。例えば、アマゾンが実店舗を出すと誰が想像しただろうか。またネット通販は小売市場の10%を占めるというが、残りの90%は実店舗が占めている。ただし実店舗の変化も激しく、アメリカの労働者に深刻な影響を与えている。
二極化が進む店舗の客層
デロイトコンサルティングで小売部門を率いるケーシー・ロバウーによれば「伝統的な小売業者が市場シェアを失っているのは、オンライン対リアルな小売店の戦いの結果だけではない」。むしろ「小規模で身軽なリアルの小売業者から戦いを挑まれている」。