【解説】日本に消費増税は不要? ケルトンが提唱するMMTは1936年にさかのぼる
Illustration by COOPERR007-ISTOCK PHOTOS
<米民主党の政治家を中心に盛り上がりを見せ、消費増税を控えた日本でも注目が高まる現代貨幣理論(MMT)――。「どれだけ借金しても国家は破綻しない」は本当か>
参院選真っ只中の日本では、憲法改正や外交政策などに加え、経済政策が大きな争点となっている。特に10月に控えている消費増税、そして選挙直前に金融庁審議会の報告書で浮上した年金不安の問題が大きな注目を集めている。
いずれも日本にとっての「永遠のテーマ」とも言える財政健全化に関連する問題だ。日本は20年ほど前から巨額の財政赤字を出し、政府債務残高の対GDP比は約240%に達している。だが、財政健全化は2007年にアメリカで始まった金融危機以降、世界に共通する課題にもなっている。
危機後、世界各国では経済の回復のため積極的な金融政策と財政政策がとられてきた。中央銀行は金利を大幅に引き下げ、さらには大規模な量的緩和策やリスク資産の購入など「非伝統的」な金融政策を実施。政府は政府債務の拡大と引き換えに、巨額の公的資金を投じて景気刺激を行った。
おかげで世界経済は回復したとされる。多くの国で株価は高騰し、失業率は歴史的水準にまで低下した。一方、こうした政策によって拡大した中央銀行のバランスシートや政府債務を「正常化」させることの必要性が、「危機克服」後の新たなテーマとして浮上している。
だが今、アメリカを中心に財政健全化とは真逆を行く主張が、大きな議論の的となっている。「政府はもっと財政を拡大しろ」「そのために必要ならどんどん借金しろ」「どれだけ借金しても国家は破綻しない」と主張する現代貨幣理論(MMT)だ。
7月16日、MMT推進派の中心的存在、経済学者のステファニー・ケルトンが来日し、都内で講演を行った。日本でも俄然注目が高まるMMTだが、本誌では本日発売の7月23日号で「日本人が知るべきMMT」特集を組み、果たしてこの理論が正しいのか、推進派・批判派双方の主張を読み解きながら、徹底解説を試みた。
特集では元本誌オピニオンエディターで、著書に『ケインズかハイエクか――資本主義を動かした世紀の対決』(新潮社)があるニコラス・ワプショットが、この理論の中核にはケインズ理論があると解説。イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは1936年の『雇用・利子および貨幣の一般理論』で、不況の際に政府が公共投資を行って雇用を守ることの重要性を唱えた。
さらにワプショットは、ケインズの経済学がいかにMMTに発展したかについて、次のように書いている。