遊び心と技術が小売りを変える!? 売上約3兆円のアリババ独身の日セール
前者は数時間おきに画面上にお年玉袋が噴出し、それを指でなぞるとポイントを獲得できるというもの。セール期間中にアプリを何度も起動させ、衝動買いを誘うのが目的だ。後者はポケモンGOに似たデザインで、街中に隠れている猫を捕まえるとTモールで使えるクーポンがもらえるという仕組みだった。プロモーションの一環としてゲームを使うのはまだ理解できるが、数億人がインストールしているショッピングアプリにゲームを実装するのはなんとも大胆だ。
この猫集めゲームは今年のテーマである「ニューリテール」と深く関わっている。「ニューリテール」(新小売り)とはインターネットやビッグデータの活用により、伝統的な小売業をアップグレードするというコンセプトだ。特に今年はオンラインとオフラインの融合という切り口でさまざまな試みが見られた。
猫集めゲームは街中に隠れている猫を集めるゲームだが、セールと連動した期間限定店舗「快閃店」(ポップアップショップ)など「独身の日」セール関連の場所では猫が出現しやすい仕組みとなっている。効率よくクーポンを獲得するためには、リアル店舗を実際に訪問しなければならないというわけだ。
他にもネットモールと実店舗の在庫を統一管理するスマート店舗、自販機型の口紅サンプル提供機(格安でサンプルを購入できるが、顧客登録が条件)、ネットで人気の商品を集めたセレクトショップなど、さまざまな「ニューリテール」企画が実施された。「双十一」セールの発表地となった上海では各地にニューリテール店舗が登場し、さながら街全体が新技術の見本市と化した感すらあった。
日本では独身の日セールの取引額ばかりに注目が集まるが、アリババはこのビッグイベントを、モバイル決済や越境ECなど新たな取り組みを広める起爆剤として活用してきた歴史がある。今後、オンラインとオフラインの融合がどれだけ加速するかが注目点となりそうだ。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。
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