最新記事

メディア

制作に200億投資、爆走アベマTVは「稼げるメディア」に化けるか

2017年11月18日(土)17時20分
長瀧菜摘(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

ネットの"小技"も効いた

「今年の前半、亀田興毅さん(元プロボクサー)、藤井聡太さん(中学生棋士)などのオリジナル番組でヒットが出たが、これらはあくまで特番だった。それが夏以降は、帯番組でも一定規模のヒットが出るようになってきている」。運営会社AbemaTVの取締役を兼ねるサイバーエージェントの小池政秀常務は、そう手応えを語る。

今後の番組制作における方針も、「しょせんネットサービスだよね、と思われる範囲を軽く超えるものを作る」と小池常務は意気込む。実際、運営会社では人員の過半数をオリジナル番組制作関連に張り付けている。

躍進の裏には、ネット企業ならではの細かな工夫もある。視聴を促すアプリのプッシュ通知は、視聴者の属性や利用傾向に合わせて文言やタイミングを細かく分けて配信。「アベマはセンスがないと思われないよう、アニメ、麻雀、釣りなど各分野に精通したスタッフが、番組編成から通知文言の作成までを担う」(小池常務)という徹底ぶりだ。

toyokeizai171118-4.jpg

生放送のニュース番組「アベマプライム」の収録風景。このほかにも数多くのオリジナル番組を制作中だ(撮影:今井康一)

先行投資が続くアベマTVだが、今期は広告枠の販売を本格化する。折しも広告業界では、ウェブサイトやSNS上の動画広告の市場が急拡大している。特に、普段テレビを見ない若年層に人気のあるネットサービスは総じて、動画広告の出稿先として存在感を高めている。

アベマTVならではの優位性もある。ユーチューブをはじめとする選択・再生型の動画サービスでは、動画広告を一定時間視聴した後にスキップできる仕様になっているのが一般的だ。一方でリニア型(地上波放送と同じように決まった時間に決まった番組を放送する形式)のアベマTVにはスキップという概念がない。それゆえ広告の視聴完了率は80%と、他サービスに比べ高く、広告主に受けているという。

toyokeizai171118-5.jpg

アベマTV事業を率いるサイバーエージェントの小池政秀常務は、広告強化に意気込む(撮影:今井康一)

広告制作を本格化、アベマは稼げるか

広告メニューも目下拡充中だ。地上波のCMを流用する形式に加え、すでにあるCM動画をスマホ視聴に合ったスタイルに加工する形式、タイアップ番組をゼロから制作する形式などを幅広く提案していく。

中でも、タイアップ番組制作ではネットならではの取り組みをしたい考えだ。「アベマTVだけで25チャンネルあるうえ、スマホ上にはツイッターやフェイスブックなど別のサービスもあふれている。つまらないと少しでも思われれば、一瞬で離脱されてしまう」(小池常務)。従来型のインフォマーシャル(商品紹介番組)ではなく、バラエティ番組調に仕上げるなど、視聴者層に合わせて作り込むという。

広告関連の売上高について、小池常務は「まだ読めない」としつつも、「社内的には目標を定めて、チームを組んで取り組んでいる」と話す。藤田社長自身が有力広告主企業に出向く"トップ営業"も、今期から本格的に始めた。ユーザーを着実に増やしてきたアベマTVだが、実際に"稼げるメディア"になれるかどうかが今後の焦点となる。

とはいえ、「(アベマTVの赤字が200億円を超えない範囲で)収益が上がった分は制作投資に回す」(藤田社長)のが当面の方針。放送局としての新たな可能性の模索を続ける。

サイバーエージェントの会社概要は「四季報オンライン」で

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中