特別リポート:「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者
地元工場への労働者供給契約を勝ち取るために、斡旋業者は厳しい競争を繰り広げている。仲松氏以外の4人の業者は、契約を確保するために工場の管理者や本社担当者に飲食の接待をしたり金品を贈ったりしなければならない、と語った。
太田市郊外の人材斡旋会社ワイズコーポレーションの丹羽洋介社長は「人材は必要だが、(その調達を依頼する)斡旋業者は選り取り見取り。会社側に決定権がある」と話す。
一方、富士重工は系列サプライヤーと取引する労働者派遣業者を直接監視する立場にはないとしている。ただし、ガイドラインに反した事項があった場合、「取引先に対して是正措置や契約見直しといったペナルティが課されることから、間接的な抑止効果があると考えている」とし、その会社が基準に従うよう改善させることも可能と話す。
技能実習生は景気下振れ時の保険
同社は太田市で46年の歴史がある矢島工場の生産を拡大した。約4000人の従業員を2交代制で使い、1日1800台を生産する。同工場で1台のフォレスターを製造するのに約20時間かかる、と工場見学者は説明を受けている。生産ラインの停止後にまもなく再開するという合図に、ベートーベンの「エリーゼのために」がスピーカーから流れるという。ロスした時間にかかったコストを思い出すためでもある。
マフラーや燃料タンクを製造するトップの下請けメーカー、坂本工業の坂本正堂会長は「目下、最大の課題はスバルの増産ペースにしっかりついていくことだ」と話す。
スバルと下請けメーカーが、技能実習生という名の下に数百人の労働者を雇っている。この制度は通常3年間の予定で労働者を送り込むが、スバルの矢島工場でフォレスターの製造作業をしているほとんどの中国人技能実習生は1年更新の契約しかしていないという。ロイターの計算によると、富士重工は中国人実習生を雇うことで、約4億6600万円を節約できたと見られる。これについて、同社はコメントを控えている。
この制度は、2008年に経験したような米国市場の落ち込みが再び起きた場合の保険になる、と子会社のスバル興産の長川光弘氏は話す。「3年と決めると、その途中で景気の下振れがあっても3年の契約を守らなくてはならない。1年の契約であれば途中で下振れが起きても安全。リスクをとらずにすむ」。
スバルの製造拠点に配属されている中国人実習生の多くは20代前半で、毎朝スバルの野球帽をかぶって仕事に向かう。ロイターが入手した給与明細書によると、彼らは週に約50時間、群馬県一般機械器具製造業の最低賃金である時給817円で働いていた。
太田市内に掲示されたスバルの広告や富士重工のウェブサイトに示された同じ工場で働く日本人の常勤期間従業員の賃金水準に比べ、ほぼ半額とみられる。米国スバルによると、インディアナ州ラファイエットのある工場では時給が最高で3136円だという。
ロイターの取材に対し、同社は技能実習生が日本労働者と同等の待遇を受けており、関連書類は中国語に翻訳され、作業員が自由に会話できる環境を整えているとしている。