中国シャドーバンキングの闇
急成長する「影の銀行」は中国経済の潤滑油の役割も果たしているが、このままではアメリカのサブプライムと同じ運命をたどりかねない
中国版サブプライム? 著名投資家ソロスは、両者は不気味なほど似ていると警告 Jason Lee-Reuters
天国と地獄は紙一重。中国の銀行は今でこそ絶好調だが、一瞬にして暗転の恐れもある。
売上高や利益、総資産などを総合して世界の上場企業をランク付けする米フォーブス誌の「フォーブス・グローバル2000」で、今年は中国工商銀行が中国企業初の首位に立った。同行の昨年の利益は378億ドル、総資産は2兆8135億ドルに上った。
今年に入っても中国の銀行は好調だ。第1四半期の工商銀行の純利益は110億ドル強で、前年同期比12%増。ただし増益率は前年同期の14%に及ばなかった。中国農業銀行の純利益も前年同期比8・2%増の75億8000万ドルだったが、前年同期の28%増には遠く及ばない。
そして新華社通信の5月の報道によれば、既に危機の芽は膨らみつつある。今年第1四半期には銀行の不良債権総額が850億ドル近くに達しており、融資残高に占める不良債権の比率は0・96%だった。この比率は11年末から6期連続で、じわじわと増加している。
不良債権は地方銀行や国有銀行でも増加している。延滞債権(不良債権の第1段階だ)も目立つ。12年半ばの時点で、国内上位10行の抱える延滞債権の総額は800億ドル弱で、年初に比べて184億ドルも増えた。中国銀行監督管理委員会はこうした状況を受け、不良債権と「一部の分野・産業におけるリスクの増大」が金融業界にとって「依然として深刻なリスク」になっていると警告している。
中国の銀行業の将来的な健全性を占う上で見逃せないのは、膨張するシャドーバンキング(影の銀行)だ。
シャドーバンキングには、大きく分けて2種類ある。1つは信託機関などのノンバンクが提供する融資など。もう1つは銀行が(各種の規制や責任を逃れるために)簿外で提供する金融商品で、これには債権を小口化した資産運用商品である理財商品(WMP)などが含まれる。
米格付け大手ムーディーズの報告書によれば、過去2年で中国のシャドーバンキングの規模は67%も拡大し、12年末には4兆7000億ドルとGDPの55%に達した。
中国では、融資基準が厳しい一方で金利が人為的に低く抑えられており、通常の銀行融資を受けられない人が多い。シャドーバンキングは、そんな人々や高い利回りを求める投資家を満足させる選択肢として、急成長した。ノンバンク系の融資は経済の潤滑油でもあった。おかげで民間の小さな新興企業も資金を調達できるし、既存の企業も運転資金を確保して借金の返済を続けてこられた。
実体なき資産バブル
ではWMPはどうか。中国政府がWMPの増加を認めてきたのは、それが投資家への高配当を実現し、結果として消費を喚起するからであり、また「裏口からの金利自由化」でもあるからだ。
しかしシャドーバンキングは、一方で資産バブルを膨らませ、過熱気味の不動産市場などへの過大な投資をあおりかねない。
そのバブルの主役と言えそうなのがWMPだ。昨年に商業銀行上位10行が売り出したWMPの総額は米ドル換算で1兆2400億ドル、前年比68%も増えている。なかには途中で破綻しかねない高リスク事業や長期プロジェクトを組み込んだ商品もある。一方でWMPの償還期間は短いので、資金のミスマッチが生じ、投資家への配当が困難になる恐れもある。