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ヨーロッパアップル非課税騒ぎがルクセンブルクに飛び火
多国籍企業の課税逃れへの非難が高まるなか、欧州の租税回避地がスケープゴートに
金融立国 ルクセンブルクはGDPの4分の1を金融セクターに依存している Francois Lenoir-Reuters
「われわれは繁栄を手放すつもりはない」
これがルクセンブルクのモットーだ。それもそうだろう。ルクセンブルクの国民は、世界で最も裕福とも言える。世界銀行の推定によれば、アメリカの国民1人当たりの名目GDPは5万ドルだが、ルクセンブルクは10万7000ドルに上る。
だがこの先はどうなるか分からない。欧州の指導者たちが企業の税金逃れの取り締まり強化に乗り出したからだ。アップルやグーグルなど巨大な多国籍企業は、各国の税制の違いを利用して、数十億ドルの利益を上げてもほとんど税金を払わずに済むよう複雑な租税回避策を駆使している。なかでもヨーロッパの中心でタックス・ヘイブン(租税回避地)を提供しているルクセンブルクは非難の的だ。
先月ブリュッセルで開催されたEU首脳会議では、金融危機に苦しむ欧州に年1兆3000億ドルの損害を与えている課税逃れ封じがテーマに。そこでルクセンブルクの巨大な金融業界がやり玉に挙げられた。
国際的な圧力に直面したルクセンブルクは、同国の金融セクターの繁栄を支えてきた銀行の秘密保持策を緩和することに同意。ユンケル首相は15年以降、国外の個人預金者が得た利息と口座の詳細について、他のEU諸国と自動的に情報交換できるようにすると約束した。「世界的な動きに合わせたまでだ」と、ユンケルは言う。「フランスやドイツの圧力に屈したわけではない」
だが多くのルクセンブルク人は、自分たちがスケープゴートにされたと感じている。「偽善だ」と、ルクセンブルク大学の経済学者パトリス・ピエレッティは言う。「アメリカには何の問題もなく利益を隠し、課税を回避できる州がある」
金融頼みはもう限界か
ルクセンブルク当局も国際的な非難に反論。同国の金融部門には資金洗浄に関する厳しい規制があり、脱税の取り締まりにも役立っていると主張する。
同国の金融セクターはGDPの4分の1を占め、ファンド設定地としてはアメリカに次いで世界2番目の規模だ。キプロスのような金融崩壊を心配する人は少ないが、金融セクターに過度に依存する危険を目の当たりにしたことで、産業の多様化を迫る圧力は増している。
ルクセンブルクは現在、情報・通信や生命科学産業の育成に注力し、金融セクターへの依存度を減らそうとしている。既に同国には欧州最大のメディア企業RTLグループ、世界最大級の衛星通信会社SES、欧州最大の航空貨物会社カーゴルックスがある。さらに電子商取引の拠点となるべく、アマゾン・ドットコムやアップルのiTunes、スカイプなどの欧州本社も誘致している。
ルクセンブルクの国民は、強国に挟まれた小国が生き残るためには、時に適応力や妥協する姿勢も必要だということを知っている。
だが一方で、彼らは戦わずして金融分野の優位を手放す気もなさそうだ。先月のサミットでユンケルは、EUの新しい情報共有ルールを自国の銀行に適用するのは、スイスや他のEU圏外のライバル国が同様のルールに同意した場合のみだということを明確に示した。
ルクセンブルクはどんな難題に直面しても、その柔軟性のおかげでヨーロッパで最も豊かな国であり続けると、同国の古参議員ノーバート・ハウパートは確信している。「わが国にはノウハウがあり、企業のエネルギーもある。議会にも銀行業界を守る覚悟がある。損害は抑えることができるだろう」
[2013年6月11日号掲載]