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ヨーロッパ経済ユーロ版マーシャルプランの中身と効果
3年で約2440億ドルが投じられるが、問題は本当に資金が必要な国に届くかどうかだ
「現代版マーシャルプラン」と期待される成長戦略はEU再生の切り札となるのか Lisi Niesner-Reuters
昨年夏、EU(欧州連合)首脳が1500億ドルを超える成長戦略に合意したときには、「現代版マーシャルプラン」と喧伝されたものだ。あれから7カ月、資金の流れにも経済にも目立った動きは見られない。
ユーロ圏の失業者は過去最悪の1880万人。今も月10万人が職を失っている。昨年の経済成長率はマイナス0.4%で、今年の成長見通しもゼロ近辺をさまよう。ギリシャの深刻な景気後退は6年目に突入し、スペインでは4人に1人が失業中だ。
しかしヨーロッパの複雑な官僚組織の中で滞っていた資金が、ようやく動き始めそうだ。先月、EU加盟27カ国が欧州投資銀行(EIB)の135億ドルの増資を正式承認した。これでEIBは新規融資を800億ドル拡大でき、向こう3年間で約2440億ドルの資金が中小企業や研究開発、公共事業に投じられる。
あまり注目されないが、EIBの信用格付けは最上級のトリプルAだ。このため低利の長期融資と資金調達が可能になる。
EIBの1ユーロの投資は、他の銀行から2ユーロ分を引き付けるともいわれる。「民間投資の呼び水になることが多いので、1ユーロをはるかに超える価値がある」と、欧州政策研究センターのファビアン・ツレークは言う。
欧州プログレッシブ財団の報告書によれば、EIBの融資拡大で今後2年間のEU成長率は0.6%底上げされ、最低120万人の雇用が生まれる。これは「かなり控えめな予想」だと、報告書を共同執筆したステファニー・グリフィスジョーンズは言う。「インフラ整備以外で中小企業への融資の効果を考慮すれば、数字はさらに上がる」
融資にも高いハードル
通常ならEIBの融資の10%は域外向けだが、今回はユーロ圏内限定とされる。審査中の案件には、スペインのかんがい・汚水処理施設の整備(19億ドル)、イタリアの中小企業への信用供与(2億400万ドル)、チェコの高速道路プロジェクト(2億2100万ドル)などがある。
「成長や雇用を促進するために長期貸し出しを行うことが任務」と、EIB広報のリチャード・ウィリスは言う。債務危機国の中小企業を支えるのも重要な仕事だ。ギリシャやスペインなどでは、業績の良い企業までが資金繰りに窮し、従業員を解雇せざるを得なくなっている。
だが「本当に必要な国に資金が渡っているか注視しなくては」と、ヨーロッパ労働組合連合の経済顧問ロナルド・ヤンセンは言う。市場原理に邪魔されたり、ドイツやイギリスなどEIBへの出資額の多い国まで融資が欲しいと言い出しかねない。
EIBの貸し出しは事業費用の50%までに制限されているが、ギリシャやスペインなどでは残りを政府や民間が工面できない恐れがある。交通やエネルギー、通信インフラのプロジェクトに充てるユーロ共同債や、貧困地域の開発資金をめぐって同様の問題が生じるかもしれない。
「成長戦略は不十分」とツレークは言う。「事業資金の折半や管理体制の確立などは、危機にある国にはハードルが高い」
今月の会合では20年までの予算の枠組みが議論される。1.3兆ドル程度になるとみられるが、イギリスやドイツは減額を求め、フランスは農業助成金の引き下げに反対するなど各国の思惑は対立。景気浮揚策として有望な研究開発や新たな電力網への投資は大幅に減りそうだ。
一方、EU域内の電子商取引の促進や自由貿易協定交渉などが実を結ぶには、かなりの年月がかかるだろう。「財政再建計画は棚上げにして、経済成長を促すことが先決」と、ヤンセンは言う。
From GlobalPost.com特約
[2013年2月12日号掲載]