最新記事

経済改革

孤独な共産主義国、キューバ

2012年10月17日(水)13時47分
ニック・ミロフ

 キューバでは今も国民の80%近くが政府や国営企業で働いている。平均月収は約20ドルで、生活の基本的ニーズを賄うのも難しい。多くの人が職場から物を盗んだり、大規模な闇市で物を売買してしのいでいる。こうした悪行を減らすことも、政府が国営企業の労働人口を減らす目的の1つだ。

 官僚たちは、民間の企業や組合(この国では「非国家部門」と呼ばれる)に新しい雇用を創出することが政府の目的だと言う。政府の統計担当局によると、民間部門の労働人口は昨年、前年の16%から22%に増加した。

 だがキューバで自営業者として働くには、細かく制限された181の職種から選ばなくてはならない。ヤシの木の伐採、誕生パーティーに出演する道化師、ラバ追い、ナイフ研ぎ......。キューバ移民の多いマイアミではもちろん、中国やベトナムでも笑われるだろう。

 キューバ人がソフトウエア会社や建築会社、トラクターの部品工場を始めようと思えば、国を出るしかない。そのため優れた人材の流出が止まらない。

 いま許可されている小規模の企業は、教育を受けた専門家の能力を生かしておらず、彼らが独立して働ける制度でもない。工業や商業の多くの分野は民間に任せたほうが効率的だということも理解されていない。中国とベトナムの現状を見れば、それは明らかなのだが。


医療や教育も維持できず

 新たに設立された企業は外国から原料や設備を直接輸入することもできない。銀行の利用や広告などの細かな点まで官僚のうるさい干渉を受ける。

 こうした障害の根底にあるのは、社会主義の「完成」と国家による最大限の統制が同一視されていた60年代からまったく変わらない経済モデルだ。外資の誘致も秘密裏にしか行えない。

 この経済モデルはとうの昔に立ち行かなくなっていた。現在の経済生産では、フィデル・カストロが59年に成し遂げた革命の成果とたたえられた医療や教育の制度を維持することも不可能だ。そのことを認めたのは、弟ラウルの時代になってからだ。

「急がず、たゆまず」とラウルは言うが、キューバの変化はあまりに遅い。80代になった指導者たちに残された時間は少ないが、彼らにはベネズエラのウゴ・チャベス大統領という強い味方がいる。キューバが変革を急ぐ必要を感じないのは、チャベスがキューバに多額の現金とエネルギー需要の3分の2を提供しているからだ。

 キューバの医療のおかげで癌を克服したと言うチャベスは、10月の大統領選挙を前にした支持率調査の大半で、野党統一候補のエンリケ・カプリレスをリードしている。

 チャベスが財政支援を続ける限り、キューバの指導者たちは中国型の改革は行わず、独自の共産主義体制をできるだけ長く守り続けるだろう。

From GlobalPost.com特約

[2012年9月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中