最新記事

世界経済

QE3の副作用で通貨戦争に再び突入か

雇用回復のためFRBは量的緩和第3弾の実施を決めたが、ドル安で通貨上昇のとばっちりを受けそうな国もある

2012年9月14日(金)17時14分
アリソン・ジャクソン

待望の決断 量的緩和第3弾の実施を発表したFRBのバーナンキ議長(13日) Jonathan Ernst-Reuters

 アメリカで8%台の失業率が続くなか、FRB(米連邦準備理事会)は13日、量的緩和第3弾(QE3)の実施を決定した。雇用の改善を目指し、住宅ローンを担保にした証券を月400億ドル規模で買い入れる。さらに、14年の終盤とされていたゼロ金利政策の期限を15年の半ばまで延長する。

 これで投資家も負債を抱える人々もひと安心。株価も上昇してめでたしめでたし......とも言えないようだ。

 経済規模が世界最大のアメリカで金融政策が変われば、世界にも大きな影響を及ぼす。もちろんプラスの影響ばかりとは限らない。

 今回はFRBの発表を受けて、米ドルが下落。将来への自信を急に取り戻した投資家たちが、アジアや中南米などの高金利通貨に資金を移動したのが主な原因だ。ブラジルや中国、マレーシアといった新興国の通貨はドルよりずっと金利が高い。だからそうした国々の通貨に投資するのは妥当な判断だ。

 では一体何が問題なのか。

 通貨への需要が高まれば相場は上昇し、その国の輸出製品の値段も上がる。こうなると、輸出への依存度が高い国は深刻な打撃を受ける。

 09〜11年に起きたのと同じ現象だ。米金融システムの信用を取り戻し、経済活動を活発化させるためにFRBが量的緩和を行った結果、大量の外国資本がブラジルや中国、マレーシアなどの新興国市場へ流入。こうした国々の政治家は激怒し、自国通貨を安く保つため為替介入などの措置に乗り出した。

 この苦い経験がまだ記憶に新しいなか、新興国の指導者たちは今回のFRBの決定に警戒を強めている。当時、世界の状況を「通貨戦争」と称したブラジルのマンテガ財務相は、今回の量的緩和の影響を引き続き注視し、必要な場合は適切な対策をとると発言した。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、インフラ被災で遅れる支援 死者1万

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中